デンタルコラム

保険診療を守る予防歯科の重要性

こんにちは、おくだ歯科医院院長の奥田裕太です。

以前デンタルコラム4月の診療報酬改定で「予防歯科」の保険適用が大きく前進します!で、ようやく予防歯科に保険が適用されるようになったと書かせていただきました。

あれから2年が経ち、世の中に予防歯科の概念が徐々に浸透してきたように感じています。

当院でも治療(キュア)目的の患者様の比率よりも、予防(ケア)目的で来院される患者様の比率の方が多くなってきており、予防歯科を推進する私たちとしては嬉しい限りです。

しかしながら、「歯医者って、歯が痛くなってから行くものでしょう?」と考えている人がまだまだ多いのも事実。

そこで今回は「保険診療を守る予防歯科」という観点からその重要性を解説するとともに、予防歯科の基本となる定期検診の重要性についてもお話しできればと思います。

目次
  1. 「病気になってから治す医療」がもたらした、社会保障の危機
  2. 健康寿命延伸のための「骨太方針」と「予防歯科の保険診療化」
  3. 予防歯科普及のための当院が実践していること
  4. まとめ

「病気になってから治す医療」がもたらした、社会保障の危機

病院や歯科医院は、痛みを感じるなど「何かしらの症状が出たときに治療を受けに行く場所」。そう考えている人は多いのではないでしょうか。

事実、戦後日本ではこうした「病気になってから治す医療」がスタンダードで、医師が病名で保険診療の範囲内かどうかを判断し、治療を施すというのが60年続く我が国の国民皆保険制度の考え方です。

この「病気になってから治す医療」には非常に高い効果がありました。

1961年に国民皆保険制度がスタートして以降、日本の医療は凄まじい勢いで成長し、世界水準まで進歩するとともに、国民の平均寿命も大きく伸びました

しかし一方で、2016年時点で日本人の平均寿命と健康寿命(健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間)には、男性で約9年、女性で約12年もの開きがあります。

私たち日本人は、人生の最後の10年弱を糖尿病や高血圧症、認知症などの病気を抱えた不健康な状態で過ごしているのです。

糖尿病や高血圧症などの慢性疾患、認知症といった病気は、医療や介護を必要とします。全て自費で賄うことはできませんから、国家予算の医療費から補助を出します。

これが国民皆保険制度の仕組みですが、現在の少子高齢化社会では必然的に医療費が膨大に膨らみ、国庫を圧迫しているのです。

「人生100年時代」と言われますが、平均寿命が伸びても健康寿命が伸びなければ、医療や介護の需要は膨らんでいくばかりですから、医療費の問題はますます深刻化していきます。

実際、厚生労働省が2018年に公表した「2040年を見据えた社会保障の将来見通し」によれば、医療費は2018年に約40兆円、2025年には約50兆円、2040年には約70兆円になると予想されています。

少子化問題の解決にメドが立っていない以上、将来の労働人口の減少はほぼ確実。医療費が膨らみ続ければ、国民皆保険制度が立ち行かなくなってしまう可能性は十分あります。

健康寿命の延伸は、「病気になったら保険診療で治療を受けられる。それによって健康で長生きできる」が当たり前の世の中を守るために重要な課題なのです。

健康寿命延伸のための「骨太方針」と「予防歯科の保険診療化」

この課題を解決するべく、政府が打ち出したのが「経済財政運営と改革の基本方針2019年(骨太方針2019)」です。

ここでは「かかりつけ医」「かかりつけ歯科医院」「かかりつけ薬剤師」といった概念が示されました。

また、病気になる前からかかりつけの病院や薬局を見つけておき、定期的に専門的なアドバイスをもらうことで健康維持や重症化予防を行うことなどが提唱されています。

この他の点でも平均寿命から健康寿命へ治療する医療から予防する医療への転換が、明確に打ち出されています。

歯科ではなかなか予防分野の保険診療化は進みませんでしたが、メタボリックドミノなど慢性疾患と予防歯科の関係性が明らかになっていった結果、2年前に実現したのです。

メタボリックドミノとは、慶應義塾大学内科教授の伊藤裕先生が提唱している考え方です。

上流の病気を発症することで次々と下流の病気を発症していく生活習慣病の負の連鎖を、ドミノ倒しにたとえています。

ドミノ倒しの最後に待ち受けているのは、脳卒中や心不全、透析や失明、下肢切断など。そして最上流に位置しているのが虫歯・歯周病といったお口の病気です。

つまり虫歯や歯周病になることで生活習慣病の負の連鎖が始まってしまうのです。

こうした構造が明らかになったことで、予防歯科の重要性が改めて見直され、保険診療化が実現したというわけです。

予防歯科普及のための当院が実践していること

当院では保健診療化が実現する以前から、予防歯科の基本である定期検診に力を入れてきました。というのも、定期検診には次のようなメリットがあると考えているからです。

  • 患者様に自分の歯に興味を持ってもらうことで、今の状態と放置してしまった場合にどうなるかを理解してもらえる。
  • 患者様の状態に合わせたオーダーメイドの予防プログラムを組み、一生涯歯を守る環境を作ることで、メタボリックドミノが倒れ始めることを防げる。

歯の構造というのは複雑で、患者様の手で完璧に歯磨きをするというのは不可能です。そのため定期検診にはプロの手で清掃することで、病気にならないよう管理するという意味合いもあります。

また「来週は歯医者の定期検診だから、いつもより丁寧に磨いておこう」など、モチベーション維持にも一役買ってくれます。

会社の健康診断や人間ドックのときに「もうすぐ検査だから禁煙しよう・禁酒しよう」と思うのと同じです。

このような考えで予防歯科に取り組んできた私たちにとって、2年前の保険診療化は本当に嬉しい知らせでした。

そのため当院では、予防歯科をより普及させるべく、定期検診以外にも色々なアクションを起こしています。

例えば血圧測定やレントゲンによる骨粗しょう症のチェック、全身疾患のリスクがある患者様への内科医・整形外科医の紹介などです。

最近では患者様を紹介した医科の先生から「歯科での定期検診に行かれていないようなので」と患者様を紹介していただくケースも生まれてきました。

これもまた、前述したかかりつけ医、かかりつけ歯科医院の考え方が浸透してきた証拠だと思っています。

他にも数年前にかかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所の承認を受けたり、日本糖尿病協会の登録歯科医院になったりと、患者様の健康寿命を延ばせるよう歯科医院として、歯科医師としてできる限りのことをしようと努めています。

院長 奥田

血圧測定の意味や医科との連携についてはこれからのお口の健康にとって大切なこと———医科歯科連携についての記事まとめで紹介している各記事をご覧ください。

まとめ

おくだ歯科医院の目標は、予防歯科が普及することで日本の医療でより多くの人々のQOL(人生の質)を向上させることです。

そのためには、予防歯科の実践と重要性の発信をして、虫歯や歯周病で歯を失う人を減らし、メタボリックドミノが倒れ始めることを防ぐ必要があります。

今回紹介した定期検診への注力をはじめとするアクションは、いずれもその一環です。

これを読んでくださった皆さんも、ぜひとも「治療(キュア)のための病院」という認識から「予防(ケア)のための病院」という方向に意識を変えてみてください。

一人一人の意識改革の積み重ねが、未来の自分や日本のためになるのですから。

院長 奥田

予防(ケア)の観点を持つことで健康寿命を伸ばすことを意識しましょう。それが回り回って、日本の国民皆保険制度を守り、自分自身の幸せにつながります。

診療内容

当院について

デンタルコラム

院長紹介

奥田 裕太

1982年生まれ。大阪十三で「おくだ歯科医院」を経営。大切にしているのは「患者様と一緒に悩み、一緒に成長し、笑える、二人三脚の治療」。

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