ネットなどでは「永久保証のインプラント」といった売り文句を掲げている歯科医院もあるので、「インプラントは一度埋め込んだら一生物」というイメージを持っている人もいるのではないでしょうか。
しかし実のところ、インプラントは「一生物」などではなく、寿命があるものなんです。
車でも家でも、定期的にメンテナンスしなければどんどん痛んでいきますが、インプラントも同じようにメンテナンスをしなければ長く使い続けることはできません。
ではインプラントを長持ちさせるためには、どんなメンテナンスをするべきなのでしょうか。
ここではインプラントの寿命が短くなる原因や、適切なメンテナンスの方法についてご紹介します。
インプラントには寿命がある
インプラントがぐらつき・脱落を起こす理由
インプラントは埋め込んだあと、徐々に周囲の骨と結合するように作られています。
「UV光機能化技術」を施したインプラントであれば、一般的なインプラントよりも早く、強固に骨と接着させることも可能です。
しかし骨と結合する前に硬いものを噛んだり、無意識のうちに食いしばったりすると、インプラントのぐらつきや脱落の原因になります。
骨と結合した後も、噛み合わせの調節を行わないままだと、夜間の歯ぎしりや食いしばりにより強い力が長時間かかった時などに、脱落してしまう可能性があります。
また加齢とともに歯並びは変わっていくものですが、人工物であるインプラントは移動しません。
そのため、放置しているとインプラントに無理な力がかかり、やはりぐらつきや脱落の原因になります。
したがって、インプラントは「埋め込んだら終わり」というものではなく、寿命があると言えるのです。
インプラント周囲炎によるぐらつき・脱落
またインプラント特有の病気、インプラント周囲炎もぐらつきや脱落を起こす原因になります。
東京歯科大学の山田了教授の「インプラント周囲炎の発現のメカニズム」によれば、インプラントは天然の歯に比べて歯垢のなかにいる細菌への抵抗力が弱いことがわかっています。
そのため天然の歯なら大した問題にならないお口の状態でも、インプラントの場合は細菌が増殖したり、炎症を起こしたりと、問題が深刻化していくおそれがあるのです。
「歯磨きを毎日3回、食後にやっているから大丈夫」という人もいるかもしれません。
しかし歯磨きだけで完全にお口の中を清潔にするのは不可能です。
そのうえ、山田教授の研究によれば、インプラントに発生する細菌は、「フィクスチャーとアバットメントの接合部」にたまりやすいことがわかっています(下図)。
つまり、歯ブラシが届かないような場所で細菌が増殖しているのです。
細菌が原因で炎症が起きると(インプラント周囲炎)、重度の歯周病と同じように、インプラントの土台となっている骨がなくなり、インプラントが抜け落ちる可能性が生じます。
このようなケースではインプラントを一度除去したのち、なくなってしまった骨を手術で再生させてから、インプラントを入れ直さなければならなくなる場合もあります。
現在インプラント周囲炎には有効な治療法は確立されていません。
そのため、インプラントの寿命はインプラント周囲炎にかかるかどうかによっても左右されるのです。
インプラントが人工物である以上、どうしても天然の歯よりも気を遣ってあげる必要があります。
適切なメンテナンスがインプラントの寿命を延ばす
なるべくインプラントの寿命を伸ばそうと思うのであれば、毎日の歯磨きによるセルフメンテナンスに加え、歯科医院でのメンテナンスを受ける必要があります。
- 歯ブラシでは磨けないような場所を清潔にする。
- 磨けていなければ磨き方を指導する 。
- インプラント周囲炎の有無を確認する。
- 歯並びに変化がないか、ある場合はインプラントに影響がないかを確認する。
- 問題を発見した場合は、早期に適切な処置をする。など
インプラント周囲炎を始め、お口のトラブルの大半は、初期の段階では自覚症状がほとんどありません。
そのためインプラント周囲炎になっていたり、歯並びに変化が生じていたりしても、自分で気づくのは至難の技です。
いざ「何かおかしい」と思って歯科医院に行った頃には、すっかり手遅れの状態になっていたという患者様も少なくありません。
したがってインプラントを長持ちさせるためには「何かあってから歯科医院に行く」という対症療法的なメンテナンスではなく、「何もなくても3ヶ月に1回、歯科医院に行く」という予防歯科的なメンテナンスが必要になります。
メンテナンスの質は「歯科衛生士」が左右する
インプラントのメンテナンスをするのは歯科衛生士
ところがここでも問題があります。というのも、歯科医院に行ってさえいれば適切なメンテナンスが受けられるというものでもないのです。
いくら頻繁にメンテナンスを受けていても、インプラント周囲炎や歯並びの変化が見過ごされれば意味がありませんし、お口の中の清掃が雑になっていてもダメです。
「自分は有名な歯科医師のところに通っているから大丈夫」と言う人もいるかもしれません。
しかしインプラントのメンテナンスを行うのは歯科医師ではなく歯科医衛生士です。
確かに歯科衛生士は国家資格のいる仕事ですが、歯科医師と同様に免許更新制度がないため、「歯科衛生士の資格を持っている=実力がある」とは限りません。
つまり適切なメンテナンスを受けるためには、技術と経験のある歯科衛生士に診てもらう必要があるのです。
これ、意外と知らない患者様が多いんです……。
歯科衛生士の実力は実務歴+取得資格で見る
歯科医衛生士の実力が十分かどうかを正確に見極めるのは難しいですが、実務歴と取得資格を見ればある程度は推測できます。
実務歴が基準になるのは、適切な歯科処置をするために経験が必要不可欠だからです。
患者様のお口の中というのは文字通り一人一人違うため、いくら知識だけが豊富でも「こういうケースは○○に問題が生じやすい」といった経験知がなければ、ケースバイケースの対応ができないのです。
そのため、私は歯科衛生士に大切な患者様のメンテナンスを安心して任せられるようになるには、10年〜20年程度の実務歴があることが望ましいと考えています。
もちろんはじめは誰でも実務歴が少ないものですから、実務歴が浅い場合はベテランの歯科衛生士などが教育することで補える体制を作ることが必要です。
教育体制を整えることで、医院全体の治療の質を上げることができると当院は考えています。
取得資格に関しては、「日本臨床歯周病認定衛生士」や「日本口腔インプラント学会専門衛生士」の資格の有無が目安になります。
いずれも認定を受ける、もしくは認定の更新を受けるためには学会への参加や講座の受講などが必要で、「一度筆記試験に合格したから」とか「高額な会費を払っているから」だけでは維持できない資格です。
これらの資格を持っている歯科衛生士にメンテナンスを担当してもらえるのなら、ひとまず安心できると言えます。
まとめ
インプラントは天然の歯に比べて細菌が繁殖しやすいため、「埋め込んだら終わり」で放置していると、寿命がどんどん短くなっていきます。
また、インプラント周囲炎によってお口全体の健康が失われる可能性も高くなってしまいます。
そのため定期的に歯科医院でのメンテナンスを行い、状況に応じた処置を受ける必要があるのです。
しかし歯科医院に行けば必ず適切なメンテナンスが受けられるかというと、そういうわけではありません。
メンテナンスの質は、歯科衛生士の質と直結しているからです。
したがって、インプラントのメンテナンスを受ける際は、あらかじめ職歴や資格の有無を確認し、相応の技術力を備えた歯科衛生士のいる歯科医院を選ぶことをおすすめします。
当院では実務歴10年〜20年のベテランや、認定歯科衛生士の資格を持っている歯科衛生士が多数在籍しています。