デンタルコラム

親知らずを抜いた方がよい場合、抜かない方がよい場合

こんにちは、おくだ歯科医院院長の奥田裕太です。

「親知らずは抜いた方がいいのでしょうか?」

これは患者様からよくされる質問の一つです。親知らずは正式には第三大臼歯と呼ばれ、大人の奥歯の中では一番奥に生える歯です。

原始時代の人類の大半は上下2本ずつ、計4本全て生えそろうのが一般的でしたが、現代は4本全てが生えそろっていない人、そもそも1本も生えてこない人も増えています。

しかしまだまだ親知らずが生えてくる人が過半数で、かつ生えてきた親知らずが原因で歯周病などの重大な病気になってしまう人が多いのも事実です。

そこで今回は、親知らずは抜いた方がいいのかという質問に答えるべく、そもそもなぜ親知らずは生えてくるのかを説明したうえで、親知らずを抜いた方がよい場合と抜かない方がよい場合について解説していきたいと思います。

目次
  1. なぜ親知らずは生えてくるのか?
  2. 親知らずを抜いた方がよい場合、抜かない方がよい場合
  3. まとめ

なぜ親知らずは生えてくるのか?

生えている人もいれば、生えていない人もいる。さらに生えている人の中には、そのせいでお口の健康を脅かされている人もいる。

これだけ聞くと、親知らずは何のために生えてくるのかと疑問に思う人も多いのではないでしょうか。

しかし昔の日本人にとって、この親知らずは必要不可欠な歯でした。なぜなら動物の肉や穀物といった硬いものをあまり調理せずに食べていたため、奥歯でしっかりと噛み、すりつぶす必要があったからです。

強い力を発揮するためには大きな顎が必要で、硬い食べ物をすりつぶすには大きな臼歯が必要です。だから当時の日本人の顎は発達し、そのスペースを埋めるように親知らず=第三大臼歯が生えていたのです。

ところが時代が変わって食べ物の調理が簡単になると、日本人は硬いものをあまり食べなくなり、柔らかく調理されたものばかりを食べるようになります。

特に幼少期からそうした食生活を送るようになると、育ち盛りに顎に力を入れて食事を食べるような機会が減り、顎の骨や筋肉が発達しにくくなっていきました。

その結果、親知らずは生えてくるものの、正常に生えるためのスペース=顎が小さくなったことで、斜めに生えてしまったり、大半が歯茎の中に埋もれたままになったりと、生え方に問題が生じてしまったわけです。

さらに今の10代の子供たちになると、遺伝子がどこかで「そもそもこの歯は必要ない」と判断したのか、生まれつき親知らずやその他の歯が少ないケース(先天性欠如)や、癒合歯と呼ばれる複数の歯がくっついて生えてくるケースも増えてきました。

このように考えると、親知らずは昔の日本人にとっては重要な歯であったものの、現代においては少しずつその役割を失いつつある、と言うことができるでしょう。

親知らずを抜いた方がよい場合、抜かない方がよい場合

「必要なくなってきているのなら、やっぱり親知らずは抜いた方がいいんだ」と思う人もいるかもしれません。

確かにレントゲン写真を診断して、親知らずが斜めや横に生えているようなケースは、抜歯が最適な処置となる場合が多いでしょう。

というのも斜めや横に生えていると患者様ご自身の手で歯磨きができないので、親知らずの1本手前の歯の虫歯の原因になったり、バイ菌の温床となって歯周病を発症したりすることがあるからです。

また親知らずが斜め、もしくは横に生えようとする力は想像以上に強く、歯並びに影響を及ぼしたり、噛み合わせに悪影響を及ぼして顎関節症の原因になったりもします。

もちろん抜歯のリスクもゼロではありませんから、一概に「斜めや横に生えているからその親知らずは絶対に抜くべき」とは言えませんが、総合的な判断をして抜歯をするケースが多いのは事実です。

しかしながら、抜かない方がよいと判断するケースがないわけではありません。例えば、親知らずが正しく生えており、噛み合わせに影響も及ぼしておらず、かつ患者様ご自身できちんと磨けているのなら、当然ですが抜く必要は全くありません

また少し斜めに生えている程度なら、あえて抜かずに置いておくという判断をすることもあります。なぜなら、場合によってはその親知らずをインプラントの代用品にできるからです。

私たちが「患者様に後悔させない治療」のために下した決断についてでも触れましたが、現在の保険制度内で虫歯の治療をすると、平均5〜6年で再治療が必要になるとされています。

一方で、人間の歯には虫歯に耐えられる回数というものがあり、一つの歯に対して約3回治療を繰り返すと神経を失うリスクが高まり、神経を失うとその後抜歯せざるを得ない状態になるまでのスピードが速くなるとされています(個人差があります)。

したがって、仮に25歳の患者様がすでに奥歯の神経を失っていた場合、その奥歯はすでに3回程度虫歯の治療を受けていると推測できます。

再発の間隔が5〜6年だとすれば、30代のうちにあと2〜3回は虫歯になるでしょう。おそらく40代を迎える頃には抜歯が必要になっているはずです。

選択を間違えないために知っておいてほしい、インプラントの適齢期でも説明していますが、30代の患者様にインプラントを行って、寿命を迎える約60年後まで機能させるのは至難の技。

経済的・身体的負担を考えると、30代で奥歯を失ったからといって安易にインプラント手術をするのは賢明ではありません

ここで登場するのが、先ほど抜かずに置いておいた親知らずです。

状況にもよりますが、多少斜めに生えている程度の親知らずなら、特殊な歯ブラシやフロスによるメンテナンス、そして歯科医院の定期検診を続けることで、虫歯にさせずに維持することは十分可能です。

この親知らずを奥歯が抜歯になったタイミングで移植するのです(自家歯牙移植)。

患者様には「この奥歯はおそらく長く持たないので、その時がくるまで親知らずを大切に磨いていきましょう」「自家歯牙移植なら保険診療内で治療できるから、大切に磨いていきましょう」などとお伝えして、二人三脚で親知らずを守っていきます。

院長 奥田

自家歯牙移植は成功率が約80%とも言われているうえ、適正年齢は30代までと言われる手法なので否定的な意見もあります。しかし年齢、コストなども踏まえて検討するのであれば、やってみる価値がある治療だと私は考えています。

このほか、レントゲン検査の結果当院では対応が難しいと判断した場合も、当院では抜かずにより高い技術を持つ歯科医院を紹介することもあります。

お口の健康状態は本当に人それぞれです。十把一からげに「抜いた方がいい」「抜かなくてもいい」と考えるのではなく、丁寧な検査と慎重な診断により、正しい判断を下す必要があります。

まとめ

親知らずを抜くべきか、抜かざるべきかは、虫歯や歯周病の知見を持った歯科医院で検査・診断をしてもらわなければ正しい判断を下すことができません。

また、親知らずが正しく生えていない場合でも、必ずしも抜いた方がよいということでもありません。

抜かないリスクもあれば、抜くリスクもあるからです。歯科医師は医学的に正しい判断はできますが、どのリスクを選ぶのか、納得できる判断を下せるのは患者様だけです。

そのため私は「親知らずは抜いた方がいいのでしょうか?」という質問に対しては、信頼できる歯科医師からきちんとした説明を受けたうえで、患者様が納得できる答えを見つけていただきたいと考えています。

院長 奥田

患者様のお口の健康を守るのは、ほかでもない患者様ご自身です。もし今親知らずに問題を抱えているのなら、ご自身のお口の健康と向き合うよい機会。信頼できる歯科医師と相談しつつ、じっくりと考えてみてくださいね。

診療内容

当院について

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院長紹介

奥田 裕太

1982年生まれ。大阪十三で「おくだ歯科医院」を経営。大切にしているのは「患者様と一緒に悩み、一緒に成長し、笑える、二人三脚の治療」。

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