夜間の歯ぎしり・食いしばりに悩んでいて、歯医者に行って睡眠時専用のマウスピース「ナイトガード」を作ってもらおうかどうかで迷っている……。
そんな人のために今回は、歯科医師の視点からナイトガードのメリットとデメリットを解説したいと思います。
ナイトガードのメリットとデメリットの前に、他のマウスピースとナイトガードの違いについて知りたいという方は、もう迷わない!マウスピースとナイトガードの種類や効果の違いを徹底解説!を参照してください。
ナイトガードのメリット
ナイトガードを装着するメリットは、下記の4点。一つずつ見ていきましょう。
寝ているときに歯ぎしり・食いしばりをしているかどうかを確認できる。
おくだ歯科医院を受診される患者様の中には、歯医者から見て歯ぎしり・食いしばりの痕跡があっても、「自分は絶対にしていません」「自分は寝るときに口を開けてしまうタイプだから」などとおっしゃる方も少なくありません。
歯を見れば歯ぎしり・食いしばりをしている、もしくは過去にしていたことは一目瞭然です。
しかしご本人に自覚がない以上、「歯ぎしり・食いしばりの痕跡があります」「いや私は歯ぎしり・食いしばりをしていない」という押し問答をするわけにもいきません。
そこで第三の証人になってくれるのがナイトガードです。ナイトガードは強化プラスチックで作成されますが、歯ぎしり・食いしばりがあると少しずつ傷がつき、削れていきます。
もし本当に歯ぎしり・食いしばりをしていないのなら、傷もつきませんし、削れることもありません。逆に言えば、傷や削れた痕跡がある=歯ぎしり・食いしばりをしているという証拠になるのです。
歯医者ができるのは、病気を治すお手伝いだけ。きちんと治すには患者様本人の協力が必須です。患者様本人が「治さなきゃ」と思ってもらうためにも、ナイトガードは効果的なのです。
歯ぎしり・食いしばりによって歯が削れることを防止できる
歯ぎしり・食いしばりの際に歯にかかる負荷は、自分の体重の2倍〜5倍とされています。体重が40kgでも80〜200kg、70kgなら140〜350kgです。
一般的に食事の際の噛む力は10kg程度とされています。その何倍〜何十倍もの力が持続的にアゴや歯にかかるので、歯ぎしり・食いしばりが続けばどうしても歯が削れていきます。
これを守るのが強化プラスチック製のナイトガードです。強化プラスチックは名前の通り強度に優れていますが、人間の歯よりも柔らかい素材です(人間の歯は鉄より硬い)。
そのため歯ぎしり・食いしばりをしても、歯そのものが削れずにナイトガードが削れるだけで済むのです。
歯ぎしり・食いしばりの力を弱めることができる
ナイトガードを装着すると、ナイトガードの厚みの分だけ噛み合わせが高くなるので、歯ぎしり・食いしばりの力を弱めることができると考えられています。
この仕組みを理解するには、一度アゴの力を抜いて、だらーんと口を開けてみるとわかりやすいかと思います。この状態でのアゴの筋肉はリラックスしています。
そこから徐々にアゴを閉じていくにつれ、筋肉に力が入っていきます。最終的に歯と歯ががっちりと噛み合ったところで一番力が入ります。
ここでナイトガードを歯と歯の間に差し込んでみます。すると厚みの分だけアゴが開き、リラックス状態に少しだけ近くなります。結果として歯ぎしり・食いしばりの力を弱めることができるというわけです。
実際、ナイトガードを入れたことで朝起きた時のアゴのダルさがマシになったという患者様もいらっしゃいます。
歯医者での噛み合わせの調整を、正しく行うことができる
噛み合わせの不具合は、単に食事がしにくいというだけでなく、体全体の歪みにもつながります。ひどくなると、顎関節症、頭痛や肩こり、吐き気などにつながる可能性もあります。
噛み合わせというのは、大人になってからも変化していきます。その変化はほんの少しずつ起きるので、なかなか自覚することができません。
そのため気づかない間に、噛み合わせがズレてしまっているという患者様は少なくありません。
歯医者でナイトガードを作ると、患者様の本来の噛み合わせになるようにナイトガードの形状を調整できます。
そのためナイトガードには、噛み合わせの微妙なズレを調整し、諸々の症状を緩和する効果も期待できるのです。
ナイトガードのデメリット
これらのメリットに対して、ナイトガードのデメリットは以下の5つがあります。こちらも一つずつ見ていきましょう。
コストがかかる
ナイトガードの作成はオーダーメイドです。歯医者で上下の歯の型取りを行なったうえで、噛み合わせの調整をして作成。
その後実際に患者様の歯に装着した上で、微調整を施します。そのため、どうしてもコストがかかってしまいます。
とはいえ、ナイトガードは保険適用の治療として認められているので、費用は4,000〜5,000円程度に収まります。
使い始めは違和感があり、アゴの痛みや口の渇きなどが生じる場合がある
ナイトガードは眠るときにつけるので、使い始めは違和感があり、眠りづらいという患者様もいらっしゃいます。
普段とは違う位置で歯ぎしり・食いしばりをすることになるため、朝目覚めたときにアゴの痛みやダルさを感じたり、若干口を開けて寝る形になって、口の渇きを感じたりする人もいます。
しかし1週間、2週間と使用するうちにこうした症状がなくなり、眠る際の違和感もなくなったとおっしゃる患者様が大半です。最初は我慢が必要かもしれませんが、長くは続きません。
あまりにも眠れないという場合は、より大きな調整も可能ですので、遠慮なく歯医者にご相談ください。
正しく使わないと歪んだり、ばい菌が繁殖したりする
ナイトガードの素材である強化プラスチックは熱に弱いため、夏場に車の中に放置するなど、高温環境下に置いてしまうと変形してしまう可能性があります。
また口の中に入れるものなので、衛生面を気にかける人も多いかと思いますが、煮沸消毒をしてしまうと、やはり熱で変形するおそれがあります。
とはいえ、ただ水で洗い流すだけでは、長期間使用するうちに確実にばい菌が繁殖してしまいます。そのため、朝起きて取り外したら、義歯洗浄剤(ポリデントなど)を使って毎回消毒する手間が必要です。
定期的な歯医者でのメンテナンスが必要
毎日歯ぎしり・食いしばりをしていれば、ナイトガードがどんどんすり減っていきます。すると噛み合わせも徐々に変化していき、合っていた噛み合わせがズレてしまいます。
そのためナイトガードは「一度作ったら終わり」というわけにはいきません。定期的に歯医者に通い、噛み合わせに不具合が生じていないかをチェックしてもらい、メンテナンスする必要があるのです。
とはいえ、歯石などのお口の健康チェックも通常3〜4ヶ月に1回は必要。そのとき一緒にナイトガードのメンテナンスを受ければ、そこまで大きな手間にはならないはずです。
耐用年数に個人差がある
ナイトガードがどんどんすり減ってくと、どこかで割れてしまったり、穴が開いてしまったりすることもあります。そのような場合でも修理は可能ですが、限界はあります。
一般的な耐用年数は2〜3年程度。当院では、それくらいに一度は作り直すことをおすすめしています。
ただし耐用年数には個人差があり、3〜4年使い続けられる人もいれば、なかには半年に1つ使い潰すほど歯ぎしり・食いしばりがひどい人もいます。
そのため、前者の人はナイトガードのためのコストが安く済みますが、後者の人は高くついてしまいます。
歯ぎしり・食いしばりがある人にとってはメリットの方が大きい
ここまでナイトガードのメリットとデメリットについて、一つずつ解説してきました。メリットが大きく感じた人もいれば、逆にデメリットが大きく感じた人もいるでしょう。
しかし歯医者の視点から結論を言うとすれば、歯ぎしり・食いしばりに悩んでいる人の場合は、ナイトガードを装着するメリットの方が大きくなります。
なぜならば、ナイトガードをせずに歯ぎしり・食いしばりを続けた際に生じる問題の方が、圧倒的に大きいからです。
それに比べれば、4,000〜5,000円のコストや、使い始めの違和感、日々の手入れや歯医者でのメンテナンスの手間などは微々たるものでしかありません。
歯医者が教える「歯ぎしり・食いしばり」についての正しい対処法でも紹介した表ですが、歯ぎしり・食いしばりを放置しておくと、次のような障害につながります。
障害が起きる部位 | 具体的な症状 |
---|---|
歯 | 歯の磨耗、歯の破折、歯がしみる、噛むと痛いなど |
歯周組織 | 歯肉炎、歯周疾患(歯周炎=歯槽膿漏) |
顎関節 | 顎関節痛、開口障害、カックン音など |
全身 | 顔面痛、頭痛、肩こり、腕のしびれ、腰痛など |
その他 | 舌痛症(舌に痛みが出る病気)、むちうち症状、倦怠感など |
上記の障害が生活にもたらす悪影響は非常に大きく、治療にかかる時間や費用もナイトガードより遥かに長く、高額になります。
このように考えると、夜間の歯ぎしり・食いしばりをしている人にとっては、ナイトガードを使用して損をすることの方が明らかに少ないのです。
まとめ
世の中の大半の物事と同じく、ナイトガードにもメリットとデメリットがあります。当然中には、デメリットの方が大きいものもあります。
しかしナイトガードの場合は、使用することによるデメリットよりも、メリットの方が明らかに大きいため、歯ぎしり・食いしばりで悩んでいる人にとっては必ずと言っていいほど必要なものです。
お口の中の健康を、ひいては体全体の健康や人間関係を守るためにも、おくだ歯科医院はナイトガードをおすすめします。
ナイトガードのデメリットよりも、ナイトガードをつけないことによって失うものの方が確実に大きいです。歯ぎしり・食いしばりにお悩みの方は、ぜひ一度当院までご相談ください。