「歯ぎしり・食いしばりには眠る時にマウスピースをつけるのがいい」
そんな話を聞いたことがある人もいるかもしれません。しかし一口にマウスピースと言っても、歯ぎしり・食いしばりが引き起こす問題を防ぐ効果のあるマウスピースと、そうでないマウスピースがあります。
ここでは歯ぎしり・食いしばりに悩む患者様にとって、本当に効果のあるマウスピースを知ってもらうために、マウスピースの種類やそれぞれの効果の違いについて解説します。
マウスピースの種類と効果の違い
マウスピースには大きく3つの種類があります。患者様自身がセルフで作るタイプのマウスピース、スポーツ用マウスピースと睡眠時専用マウスピース「ナイトガード」です。
以下ではそれぞれの本来の役割と、夜間の歯ぎしり・食いしばりに対する効果について見ていきましょう。
セルフで作るタイプのマウスピース
ネットショップなどで手に入るセルフで作るタイプのマウスピースは、沸騰させたお湯で既成の樹脂プレートを温め、これを歯にはめて噛み込むことで成形するというものです。
歯医者に行かなくてもマウスピースが手に入るという意味ではメリットかもしれません。しかしこの種のマウスピースは、メリットよりもデメリットのほうがはるかに大きいため、当院では推奨していません。
というのも、セルフで作るタイプのマウスピースは自分の感覚だけで成形してしまうため、噛み合わせの調整ができません。結果、噛み合わせのバランスが崩れるので、アゴの痛みや怪我に繋がるのです。
人間の噛み合わせというのは非常に繊細なもの。少しのズレが歯やアゴに大きな負担を与えます。正しい噛み合わせにするためには、専門的な知識を持った歯医者が調整する必要があります。
それをせずに成形されるマウスピースでは、夜間の歯ぎしり・食いしばりに効果があるどころか、むしろ逆効果になってしまうのです。
スポーツ用マウスピース
「マウスピース」と聞いて、ボクシングやラグビーの選手が使っているスポーツマウスピースを想像していた人も多いのではないでしょうか。
スポーツマウスピースの役割は、パンチやタックルなどの衝撃から歯を守る以外に、瞬発的な食いしばりから歯を守ったり、歯で自分や相手を傷つけることを防いだりすることです。
人との接触の多いスポーツにおいては、重たいものを守ったり、転びそうになった際に踏ん張ったりと、力を込める場面で瞬発的な食いしばりが行われます。
続けていると、歯医者が教える「歯ぎしり・食いしばり」についての正しい対処法で紹介したような、夜間の歯ぎしり・食いしばりと同様に、様々な病気につながるおそれが出てきます。
また単純に衝撃を受けるだけでなく、「衝撃が原因で歯が頬の内側に当たったり、唇を噛んだりして切れる」「歯が相手に当たって傷つける」といったリスクも十分あります。
スポーツ用マウスピースはこうした事態を防ぐために作成・使用されるものです。歯医者によってはスポーツ用マウスピースの作成を請け負っていないところもあります。
なぜなら、本来スポーツ用マウスピースの作成は、歯科医師になるための必須技術ではないため、品質の高いものを作るにはスポーツ歯科学会などで学ぶ必要があるからです。
当院には昨年までスポーツ歯科学会の認定医の先生が在籍していたため、彼からノウハウを譲り受け、1つ13,000円(調整代込、保険適用外)で作成しています。
とはいえ今の当院に専門医はいないので、専門の歯医者に依頼したいという場合は、責任を持って紹介させていただきます。
しかし一方で、スポーツ用マウスピースには夜間の歯ぎしり・食いしばりへの効果はあまり期待できません。
というのも、スポーツ用マウスピースの多くはゴム製の柔らかいタイプが多いからです。
夜間の歯ぎしり・食いしばりは瞬発的なものではなく、持続的なものです。そのため柔らかいマウスピースでは、すぐに削れて穴が空いてしまうのです。
加えて夜間の歯ぎしり・食いしばりがある人が、柔らかいマウスピースをつけて眠ると、逆に食いしばりの力が強くなるという研究結果も出ています。
また歯を覆う範囲が大きくなるせいで唾液の循環が悪くなり、虫歯のリスクが高まる可能性もあります。
以上のことから、スポーツ用マウスピースはあくまでスポーツ用であり、夜間の歯ぎしり・食いしばりには適していないということができます。
睡眠時専用マウスピース「ナイトガード」
睡眠時専用マウスピース「ナイトガード」は名前通り、夜間の歯ぎしり・食いしばりから歯やアゴを守るために使用されるものです。
しかしナイトガードにも実は2つの種類があります。一つはスポーツ用マウスピースに多いゴム製のソフトタイプ、もう一つはレジンを固めて作るハードタイプです。
どちらも歯医者で作ることができますが、夜間の歯ぎしり・食いしばりへの効果には大きな違いがあります。
ソフトタイプに関しては、当院では逆効果になる可能性が高いと考えて作成していません。
理由はスポーツ用マウスピースと同じで、耐久性不足と食いしばりの力が強くなる恐れがある点、そして虫歯のリスクを高めるおそれがある点の3つです。
当院が推奨しているのは、もう一方のハードタイプです。こちらであれば、本来ナイトガードが担うべき、以下の役割を十分に果たすことができます。
- ナイトガードについた傷を確認することで、歯ぎしりや食いしばりをしているかどうかの確認ができる。
- 一定の硬さを持ちながら歯よりも柔らかい素材を使うことで、歯ぎしりと食いしばりから歯を守る。
- ナイトガードの厚みのぶんだけ噛み合わせを高くすることで、噛む力を緩和する。 など
夜間の歯ぎしり・食いしばりから歯を守りたいのであれば、ハードタイプのナイトガードをおすすめします。
ナイトガードの着用感に慣れるためにソフトタイプを処方する歯医者もありますが、その場合も最終的にはハードタイプを使用することになります。
まとめ
確かにマウスピースは歯ぎしり・食いしばりが引き起こすトラブル緩和に効果があります。しかしより効果が高いのは「ハードタイプのナイトガード」だと当院では考えています。
患者様ご自身で作るレジンのマウスピース、スポーツ用のマウスピースや、ソフトタイプのナイトガードはもともとの役割が違ったり、逆の効果を招く危険があったりします。
そのため、歯ぎしり・食いしばりでお悩みの方は、専門知識のある歯科でハードタイプのナイトガードを作ってもらうことをおすすめします。
ナイトガードのメリットやデメリットについて、詳しくは歯ぎしりや食いしばりに効果的!ナイトガード のメリットとデメリットとはをご覧ください。
当院でも、患者様の80%程度がナイトガードを使用しており、皆さんに効果を実感していただいています。お悩みの方はお気軽にご相談ください。