こんにちは、おくだ歯科医院院長の奥田裕太です。
みなさんは日本人の主な死因をご存知でしょうか。ガンや心疾患、脳血管疾患に肺炎などがメジャーですが、実は転倒で亡くなる方も年間数千人〜1万人程度います。
転倒時の衝撃で、背骨や太腿の骨が折れてしまい、そこから病状が悪化してしまうケースが多いのです。
ではなぜそんなに簡単に骨が折れてしまうのか。それは日本人の10%が骨密度の低下によって骨の強度が下がる骨粗しょう症にかかっているからです。
高齢者、とりわけ閉経後の女性に多いこの病気ですが、実は近年医科と歯科の連携により、早期発見・治療ができることがわかってきました。
そこで今回は、骨粗しょう症という病気について紹介するとともに、現在行われている医科歯科連携のあり方についてお話ししたいと思います。
日本人の10%がかかっている骨粗しょう症とは?
骨粗しょう症とは、骨の量が減って骨が弱くなり骨折を起こしやすくなる病気で、約1000万人以上の日本人がかかっていると言われています。
またそのうちほとんどが女性、特に閉経後の女性に多く、女性ホルモンであるエリスロゲンと老化に関わりが深いと考えられています。
病気が進行した場合、転倒などの少しの衝撃で脊椎(背中の骨)が圧迫骨折したり、大腿骨頸部(太ももの骨)が骨折したりと、大きな怪我につながることも少なくありません。
「とはいえ骨折でしょ?」と思う人もいるでしょう。
しかし骨粗しょう症の人が大腿骨の骨折をした場合そのまま寝たきりになるケースも多く、1年後には10%の人が、5年後には50%の人が亡くなっているというデータがあります。
この数字を見ると、たかが転倒、たかが骨折とは決して言えないはずです。
また骨粗しょう症が判明した場合、一般的にはビスフォスフォネート系製剤(以下BP製剤)という薬剤が処方されますが、この薬が歯科治療における問題を引き起こすことがあります。
というのも近年、BP製剤使用経験のある人が抜歯などの顎の骨に関わる治療を受けた場合に、顎骨壊死(歯肉の疼痛や腫脹,歯の脱落)が生じたという報告があったからです(骨粗しょう症+BP製剤使用で0.1〜0.3%、ガン+BP製剤使用で6〜9%。いずれも海外の報告)。
ただこれは、あくまで「そういった可能性がある」ということであって、必ず顎骨壊死が起きるという話ではありません。
ところが、この報告を受けて一定数の歯科医師・整形外科医が「BP剤を使用している患者様は抜歯ができない」と誤解してしまったのです。
結果、歯科医師が抜歯など顎骨壊死のリスクのある治療を断念したり、整形外科医から話を聞いた患者様が歯科治療を拒否したり、骨粗しょう症の治療を独断で中止してしまったりと、別の問題が生じてしまいました。
現在では様々な研究が行われ、2016年の顎骨壊死検討委員会が以下の旨の見解を発表しました。
抜歯の前にBP製剤の休薬を積極的に支持する根拠はない。しかし4年以上治療を受けている患者に対しては、全身の状態を踏まえて主治医と協議のうえ、休薬の是非を検討するよう提唱する。
当院でも整形外科医としっかりと連携し、口腔ケアをしっかり行いながら外科処置を行うことにしています。
ただし骨粗しょう症発症前で、かつ骨量が減少傾向にある人を早期に発見できれば、こうしたリスクのある薬剤を使わなくても、生活習慣の改善やビタミン剤などで症状が改善できる可能性があります。
そのため早期発見・治療は非常に重要なのですが、実は骨粗しょう症は早期発見・治療が難しい病気でもあります。
なぜなら、骨粗しょう症の症状自体は痛みがなかったり、あった場合にも軽度の腰痛程度の痛みがあったりするくらいで、自覚症状がほとんどないからです。そのため、病院でレントゲン検査を受けなければ発見は難しいとされてきました。
骨粗しょう症はハイリスクなのに事前の対処が難しい、厄介な病気なのです。
医科歯科連携が骨粗しょう症の早期発見につながる
そんななか、現在松本歯科大学で歯学部教授を務める田口明先生をはじめとする日本歯科放射線学会の先生方が、骨粗しょう症のリスクを低減する考え方を提案しました。
すなわち、歯科で撮影するパノラマレントゲン写真を利用した、骨粗しょう症のスクリーニング検査(※)の有効性と重要性を提唱したのです。
※会社などでの健康診断と同じ、病気の疑いのある人を見つける検査のこと。
同種の研究は世界中で200以上の論文が出ており、ヨーロッパの関連財団では2億円以上のコストをかけてエビデンス(科学的根拠)が積み重ねられている分野でもあります。
日本でも田口先生らによって、歯科のパノラマレントゲン写真で下顎の骨が脆くなっていることがわかった人のうち、その後の検査で80〜90%が骨粗しょう症であったことが判明しています。
また日本歯科放射線学会のトレーニングを受けた歯科医師が、パノラマレントゲン写真を通して検査をしたのち骨粗しょう症の疑いがあるとして整形外科に紹介した人の95%が、実際に骨粗しょう症もしくは骨量の減少傾向があった、という報告もあります。
つまりトレーニングを受けた歯科医師や放射線技師がいれば、歯科のパノラマレントゲン写真を使って骨粗しょう症の疑いがあるかどうかの判断ができる可能性がある、ということです。
もちろん最後は、信頼できる整形外科の先生を紹介し、専門的なレントゲン写真による検査が必要になります。
しかし医科とは異なり、定期的に健診を行っている歯科である程度の判断ができれば、より多くの骨粗しょう症の早期発見・治療につながるはずです。
私自身、田口先生ら日本歯科放射線学会の講習会に参加したあと、当院ですでに骨粗しょう症と診断された患者様と健康な患者様のパノラマレントゲン写真を見比べたところ、骨の密度の低さ(粗造感)を確認することができました。
これまでは虫歯や歯周病の有無、顎関節の異常などに目を向けてきましたが、今後はおくだ歯科医院でもトレーニングを積み重ね、少しでも患者様の骨粗しょう症を早期に発見できるように精進していきたいと考えています。
まとめ
歯科で行うことができる骨粗しょう症の検査は、あくまでスクリーニング検査です。そのため歯科から医科(整形外科)に紹介したのち、骨粗しょう症ではなかったというケースも十分あり得ますし、何もないに越したことはありません。
しかし、もし歯科でのスクリーニング検査を通じて早期発見・治療ができれば、薬剤などを使わず、食事療法や運動療法だけで改善することが可能になります。
ですから歯科から骨粗しょう症の疑いがあると指摘を受けた場合は「私には関係ない」「私は大丈夫」と考えるのではなく、ぜひ整形外科での検査にご協力いただければ幸いです。

早期発見・治療は身体的な負担だけでなく、精神的、経済的な負担を軽くすることにもつながります。後回しにせず、大事になる前に対処しておくことを強くおすすめいたします。