こんにちは、大阪・十三のおくだ歯科医院、院長の奥田裕太です。
皆さんは、歯科医院に行って血圧を測定したことがあるでしょうか?
「歯医者で血圧?関係ないのでは?」
そう思った方も多いかもしれません。
しかし、「奥歯を失った人は血圧が上がりやすくなる」と聞くと、驚くのではないでしょうか。
実は、お口の健康状態と血圧には深い関係があることが、近年の研究で分かってきています。
実際、大規模な疫学研究では、歯を多く失っている人ほど高血圧を発症するリスクが高いことが示されています。
お口の健康は、単に食べる機能や見た目だけでなく、血圧をはじめとする全身の健康にも、密接に関係しているのです。
今回はこの「高血圧」という病気のおそろしさをお伝えするとともに、歯周病・歯の欠損との意外な関係について、わかりやすく説明してみたいと思います。
そもそも「高血圧」とはどんな病気?

高血圧とは、全身に血液を運ぶホース(血管)に、慢性的に高い圧力(血圧)がかかり続ける状態を指します。
ホースに絶えず大量の水が流れ込み、圧力がかかり続ければどうなるかイメージしてみてください。
耐久性のあるホースでも徐々に劣化が進み、硬くなったり、亀裂が入ったりするはずです。
これと同じようなことが、私たちの体の中の血管でも起こるのです。
| 病気の概要 | 慢性的に血圧が高くなる状態 |
| 主な症状 | ・ほとんど自覚症状がなく、普段の生活では特に体調の変化を感じない。 ・しかし徐々に血管をはじめとする体内をむしばみ、以下のような合併症のリスクを高める。 ※このことから、「サイレントキラー(静かな殺し屋)」と呼ばれる。 |
| リスクの高まる病気 | ・脳卒中(脳梗塞・脳出血) ・心筋梗塞 ・心不全 ・腎臓病 など |
| 主な原因 | ・塩分の多い食事 ・運動不足 ・肥満 ・喫煙 ・過度の飲酒 ・ストレス などの生活習慣 |

血液を運ぶ血管に亀裂が入ったら……想像するだけでも恐ろしいことですが、もっと恐ろしいのは、この病気には痛みなどの自覚症状がほとんどないことです。
実際、医療の現場では、脳卒中や心筋梗塞で救急車に運ばれて、血圧を測ってみたら重度の高血圧だった、ということが珍しくありません。
いつの間にか進行して、気づいた頃には命に関わる状態になっている。このことから高血圧は「サイレントキラー(静かな殺し屋)」と呼ばれることもあります。
日本では現在、約4,300万人が高血圧と推定されており、非常に身近な病気のひとつです。
実はこの病気にお口の健康状態、特に歯周病や歯の欠損が関わっている可能性があることが、近年の研究で注目されるようになってきました。
歯周病・歯の欠損と高血圧の意外な関係

では、なぜ歯周病や歯の欠損が高血圧と関係すると言われているのでしょうか。
ポイントは「奥歯の役割」です。
奥歯は、食べ物を細かくすりつぶすための歯です。
前歯が「かみ切る歯」だとすれば、奥歯は食べ物をしっかり噛み砕くための歯と言えるでしょう。
つまり奥歯は、食事の質を決める歯なのです。
そのため歯周病などが原因で奥歯を失うと、食生活が変化します。その結果として、血圧にも影響する可能性が見えてきた、というわけです。
奥歯を失うと「噛めない食べ物」が増える

奥歯を失うと、まず起こるのが咀嚼力(噛む力)の低下です。
すると自然と、
- 硬い野菜
- 繊維質な食品
- 肉類
などを避けるようになります。
一方で、
- 柔らかい食品
- 加工食品
- 味付けの濃い食品(噛む回数が少ないと、味が薄く感じる傾向があるため)
などの塩分が多くなりがちな食べ物ばかりを選びやすくなります。ご存知の通り、塩分の摂りすぎは、高血圧の主な原因の一つです。
つまり、
- 奥歯を失う
- 噛める食べ物が変わる
- 食生活が変わる
- 塩分摂取が増える
- 血圧が上がりやすくなる
このような流れが起こる可能性があると考えられています。
大規模研究が示した「歯の本数と血圧の関係」

実際に、韓国で実施された、歯の本数と高血圧の関係を調べた大規模な疫学研究では、歯を多く失っている人ほど高血圧を発症するリスクが高いことが報告されています。
こうした結果から、歯の健康状態と血圧の間には何らかの関連がある可能性が指摘されているのです。
(参考文献:Lee H.J. et al., Journal of Hypertension, 2019)
歯周病によって全身に広がる「慢性的な炎症」

奥歯の欠損による食生活の変化とは別に、歯周病そのものが血圧に影響する可能性も指摘されています。
歯周病は、歯ぐきや歯を支える骨に炎症が起こる病気です。
この炎症によって生じた細菌や炎症物質が血液の流れに乗って全身に広がると、血管の内側(血管内皮)にダメージを与える可能性があると考えられています。
血管の内側が傷つくと、血管は柔軟性を失い、硬くなっていきます。
この状態は動脈硬化と呼ばれ、血圧を上昇させたり、脳卒中などの危険な病気の原因になったりします。
実際に、複数の「歯周病と高血圧の関係」についての研究を比較・検討した結果によれば、歯周病がある人は高血圧を持つ割合が有意に高いことが報告されています。
特に重度の歯周病を患っている人では、高血圧のリスクがさらに高くなる可能性も示されています。
(参考文献:Muñoz Aguilera E. et al., Hypertension, 2020)
お口の健康を守ることは、全身の健康を守ること

ここまで見てきたように、
- 奥歯の欠損による咀嚼力の低下
- 歯周病による慢性的な炎症
といったお口の問題は、血圧にも影響する可能性があります。
そのため近年では、
「お口の健康は全身の健康につながる」
という考え方が、医療の世界でも重視されるようになっています。
奥歯を守ることは、単に食事をしやすくするだけではなく、生活習慣病のリスクを減らすことにもつながる可能性があるのです。
おくだ歯科医院が患者様の血圧を測る理由

おくだ歯科医院では、待合室に血圧測定器を置き、診療前に患者様ご自身で血圧を測定していただいています。
受付スタッフも、
- 健康な血圧の目安
- 注意が必要な血圧の数値
などについての基本的な知識を共有しており、医院全体で一人ひとりの患者様の血圧の変化を把握・記録しています。
「どうして歯医者で血圧を測るの?」と驚かれる方もいらっしゃいますが、これには大きく2つの理由があります。
理由①:安全な治療のため
歯科治療では、麻酔を使用したり、緊張によって血圧が上昇したりすることがあります。
特に高血圧の方の場合、体への負担が大きくなる可能性も。治療前に全身状態を把握するために血圧を測定・記録しています。
理由②:「かくれ高血圧」を発見するため
内科などの医科は「病気になってから行くところ」というのが患者様の一般的な認識です。
一方歯科医院は、病気かどうかに関係なく「定期検診」という形で通院するので、自覚症状がほとんどない高血圧を見つけやすい医療機関と言えます。
とはいえ、当院での血圧計測でかなり高い数値が出た場合でも、すぐに内科受診となるわけではないのでご安心ください。
- 歯が痛い
- 急いで来た
- 直前にタバコを吸った など
によっても血圧は変動しますし、白衣性高血圧(病院など医療現場の緊張により血圧が上昇するケース)であれば問題はありません。
そのため当院では、数値の高い方には、ご自宅で起床後の血圧測定(お手洗いがしたければその後)をお願いしております。
そのうえで、起床後の血圧が140を超えているようであれば、安全な歯科治療と患者様の健康を配慮して内科の受診をお願いしています。
このように歯科医院での血圧測定は、全身の健康を守るための“気づき”になることもあるのです。
まとめ
奥歯を失うことによる咀嚼力の低下や、歯周病による慢性的な炎症など、お口の健康状態は血圧をはじめとする全身の健康にも影響する可能性があります。
もちろん、歯の状態だけで血圧が決まるわけではありません。しかし、お口の健康を守ることが、全身の健康を守ることにつながる可能性も十分にあるのです。
歯周病や歯の欠損は、適切なケアと定期的な歯科受診によって予防できることが多い病気です。
将来の健康を守るためにも、ぜひお口の健康にも目を向けてみてください。

「歯科医院はお口の中だけを見る場所であってはならない」と私たちは考えています。おくだ歯科医院では、患者様の全身の健康にも目を向けながら、安心して治療を受けていただける環境づくりを大切にしています。


