「もうこの歯は抜くしかない」
かかりつけの歯科医院での定期検診や、痛みを感じて行った歯科医院で、突然こんなふうに言われたら、誰もが不安や戸惑いを感じるものです。
公益財団法人8020推進財団「平成30年(2018年)の第2回永久歯の抜歯原因調査」によれば、日本人の成人が永久歯の抜歯をする原因トップ5は、
- 歯周病 (37.1%)
- むし歯(う蝕) (29.2%)
- 破折 (17.8%)
- その他 (7.6%)
- 埋伏歯 (5.0%)
となっています。このうち、むし歯が原因の場合、抜歯と判断する前に歯の内部の治療(歯内療法)を施すことで、内部に侵食しているむし歯部分だけを治療し、歯を残せるケースがあります。
長年大切にしてきた歯を失うかもしれない。その不安な気持ちに寄り添い、可能な限り歯を残す方法を探る専門医がいます。
以前のインタビュー記事で紹介した峯田茉里(みねだ・まり)先生は、この分野における専門医資格「歯内療法専門医(日本歯内療法学会)」を持つプロフェッショナルです。
峯田先生については、名医のチョイスというサイトでも紹介されていますが、年間200本超の治療実績を持つ、歯内療法だけを請け負うフリーランス歯科医師で、現在は大阪・十三の当院を含めて5つの歯科医院に勤めておられます。
今回はそんな峯田先生に、歯医者で「もうこの歯は抜くしかない」と言われた時、患者様がまず何を考えれば良いのかをお聞きしました。
歯内療法専門医とは?
概要 | ・歯の内部の治療に特化した専門医資格 ・日本歯内療法学会が認定 ・2024年8月時点で全国にわずか268人(大阪府では24人、淀川区では峯田先生1人) |
資格取得の要件 | <基本要件> ・日本歯内療法学会への所属(5-7年以上) ・認定医取得が前提 <実績要件> 1.学会や研修会への参加 ・症例報告の提出 ・学会発表など ・上記の活動を規定以上こなす 2.審査 ・書類審査 ・症例報告の口頭試問 ・筆記試験 |
専門性 | ・マイクロスコープを使用した精密な根管治療 ・最新の治療材料・技術の使用 ・感染管理の徹底 ・複雑な症例や再治療への対応 ・一般の歯科医院と比べて高い治療成功率 |
まずは「抜歯が必要な理由」を知るところから

__ずばり、歯医者で「もうこの歯は抜くしかない」と言われたら、患者様は最初に何を考えれば良いのでしょう?
峯田:まずは、歯医者さんに「どうして抜く必要があるんですか?」と聞いてみてください。
抜歯が必要になる理由は大きく3つあります。
歯周病が進行して、歯がグラグラしていたり、歯周ポケットが改善しない場合。
むし歯が進行して歯の根っこの部分にまで到達している場合。あとは破折と言って、歯に修復できないような亀裂が入っている場合です。
ともかく自分の歯に興味を持って、なぜ抜歯が必要な状況になってしまったのかを知りましょう。そのうえで、歯を残したいのならセカンドオピニオン、他の歯医者さんに相談することをおすすめします。
「抜くしかない」と言われた歯医者さんにレントゲンなどの資料一式を用意してもらえれば、次の相談先で話がスムーズに進みますよ。
__電話相談などで、歯を残せるかどうか、教えてもらうことはできないんでしょうか?
峯田:難しいですね。なぜなら抜歯をする・しないの判断は、歯科医師によって変わる場合が珍しくないからです。
例えば歯周病が原因の場合、私のような歯内療法を専門とする歯科医師が「もう抜くしかない」と判断するケースでも、おくだ歯科医院の先生方のように歯周病の専門家が診れば「まだ残せるかもしれない」と判断することもあります。
でも逆にむし歯が原因の場合に、歯周病専門の歯科医師が抜歯と判断しても、歯内療法の専門医が「これなら残せる」と判断するケースだってあるわけです。
こうした判断を下すには実際に検査や診察をし、知識と経験に基づいて分析・考察をする必要があります。だから電話やメールのやりとりでは確かなことは何も言えないんですよ。
__しかし「歯医者のセカンドオピニオン」と言われても、どんなところに相談して良いのか一般の人間にはわかりません。
峯田:そこで最初にお話しした抜歯の理由が効いてきます。
__どういうことですか?
峯田:つまり、
- 歯周病が原因なら歯周病を専門とする歯科医院
- むし歯が原因なら歯内療法を専門とする歯科医院
- 破折が原因なら「接着歯科治療」という分野を専門とする歯科医院
に相談することで、より高度な治療を受けられる可能性が高くなるからです。
私は歯内療法を専門とする歯内療法専門医ですから、むし歯が原因で抜歯が必要と言われた場合であれば相談に乗ることができます。
「歯内療法専門医」は他の歯科医師と何が違う?

__餅は餅屋というわけですね。しかし「専門医」というのはそんなにも他の歯科医師と違うものなんですか?
峯田:もちろん専門医でなくても治療はできますよ。
でも、むし歯が歯の根っこにまで広がってしまった場合、最初の治療(根管治療)を適切な方法(※)で行えば成功率は非常に高いのですが、もし再発してしまうと一気に40%まで下がってしまうんです。
専門医であれば1回目の根管治療をきちんと行えるだけでなく、再発してしまった場合にもできる限り再発のリスクを引き下げることができます。
__でも再発しても治療すれば治るんですよね?だったらわざわざ専門医の先生に診てもらわなくても……。
峯田:再治療はできます。ただし、一般的に1本の歯が治療に耐えられるのは最大で5回と言われています。むし歯になったところを繰り返し治療していると、歯が脆くなったり、割れたりするからです。
あくまで「最大で5回」なので、それが3回なのか2回なのかはわかりません。
なので、むし歯が原因で抜歯が必要と言われている方で歯を残したい場合は、できれば歯内療法専門医に相談してもらったほうがいいのかな、と思います。
※…ラバーダム防湿の徹底、次亜塩素酸ナトリウムを使った洗浄、水酸化カルシウムを使った貼薬、側方加圧充填法による根管充填。
保険外診療の「根っこの治療」が高いワケ

__歯内療法専門医の先生でも、保険診療はしてもらえますか?
峯田:対応している先生もいますが、私の場合は全て保険外診療になりますね。
__どうしてですか?
峯田:今の日本の保険制度で認められている治療方法では、どうしても成功率が下がってしまうからです。
__具体的にどういうところが違うんでしょうか?
峯田:例えば保険外診療の根管治療(精密根管治療)では、感染を防止するラバーダム防湿という方法や、複雑に入り組んだ歯の内部を細部まで観察するマイクロスコープ、その他保険が適用されない薬剤なども自由に使えます。
保険診療よりもコストと時間をかけるためどうしても費用はかかってしまいますが、長い目で見ればこの段階でしっかりと治療をしておく方が、結果的にコストは安く済むと私は思っています。
__というと?
峯田:歯を失った後、そのまま放置すると周りの歯が傾いたり、対合歯(噛み合う歯)が伸びてきたりして、噛み合わせが崩れていきます。これは将来的に顎関節症などの原因にもなります。
そのため、抜歯した後は何らかの処置が必要になります。例えば、ブリッジなら両隣の健康な歯を削って土台にする必要があります。
インプラントであれば手術が必要で、費用も100万円前後かかります。入れ歯の場合も、定期的な調整や作り替えが必要です。
一方、自分の歯を残せれば、こうした追加の治療は必要ありません。確かに精密根管治療は初期費用が高くなりますが、成功すれば天然の歯としての機能を維持できます。
しかも治療回数は多くても3回程度ですから、治療にかかる時間も格段に短くなります。
何より自分の歯で食事ができること、見た目の自然さ、発音のしやすさなど、生活の質(QOL)を維持できます。
「技術と知識、どっちもなければダメ」———“年間200本超”の治療実績を持つ峯田医師が大切にしていること

峯田:ただ、無理に歯を残しても意味はありません。時には抜歯の判断をすることが、患者様のためになることもあります。
歯の状態によっては、お金をかけて治療をしても数ヶ月、ひどい場合は1ヶ月程度で歯が割れるなどして抜かなければならなくなるケースもあるからです。
そのような場合は患者様に了承を得て、抜歯で対応します。
__そうした判断力は、やはり現場で培ったものですか?
峯田:現場で磨いた技術と、論文や書籍で積み上げた知識の両方が、適切な診断につながると考えています。
というのも、技術というのは単なる器具の操作でしかありません。でも患者様はお一人おひとり全く違う歯をしており、症状もそれぞれ異なります。
だから患者様の状況に応じた適切な対応をするには、知識に基づいた考察が必要不可欠なのです。
恩師で、歯内療法指導医でもある牛窪敏博(うしくぼ・としひろ)先生も、私が勤務医時代によく「一流の歯科医師になるには、ここ(頭)とここ(腕)の両方が必要だ。どっちかだけじゃダメだぞ」とおっしゃっていました。
__厳しい先生だったんですね。
峯田:厳しい時もありましたがとても優しい方でした。新人医師の私がズレた質問をしても、理解できるまで1から丁寧に教えてくださいました。
歯科に対する真摯な姿勢をいつも見せてくださった事に昔も今も、深く感謝しています。
当時先生が院長を務めておられた東大阪うしくぼ歯科での10年は、これからも歯科医師としての土台になると思います。それくらい、たくさん鍛えてもらいました。
__記憶に残っているやりとりはありますか?
峯田:牛窪先生が当時院長を務めておられた東大阪うしくぼ歯科に入職が決まった時のことです。先生は新卒の私に「抜いた歯を100本、かき集めて持ってこい」と言ったんです。
__「抜いた歯を100本」?
峯田:そうです。歯の根っこの治療をしていない、歯周病などが原因で抜かれた歯を100本。当時の私には歯科関係者の知り合いが父しかいなかったので、すぐに実家に連絡して集めてもらいました。
父も張り切ってくれたのか、後から考えると100本どころか300本くらいの歯を持って入職したんです。
__すごい量ですね。でもそれをどうするんですか?
峯田:うしくぼ歯科の自習室には、ズラーっとマイクロスコープが並んでいるんですが、そこで延々とそれらの歯を使って治療の練習をしました。
最初の3ヶ月は週に3日を1日中。4ヶ月目からは週に1日に減りましたが、今思えば勉強ばかりで知識に偏っていた新卒の歯科医師に、技術を叩き込むためのトレーニングだったように思います。
途中からは自主的に続けて、入職1年半で牛窪先生の秘書の方から止められるまで、ずっとやっていましたね。
__1年半で300本をやり通したんですか?
峯田:先ほどもお話ししたように歯の根っこの治療では自分や他の歯科医師が担当した歯を再治療するケースがあります。なので、一度300本を治療し終えたあとは、その歯の再治療の練習を続けていました。
__どうしてそんなに打ち込めたんですか?
峯田:単純に歯の根の治療が好きだったり、自習室に時計がないのでつい夢中になってしまったりということもありますが、危機感も大きかったですね。
というのも、それだけ練習をしていても、やっぱり実際に患者様の歯を治療するとなると勝手が全然違うんです。
抜いた歯は上下左右に360度回転させられますが、患者様の歯はそういうわけにはいきません。
器具の操作一つとっても、肉眼で見るのと歯科用ミラーを通じて見るのとでは違いますし、前歯なら比較的簡単に処置ができても、奥歯になると難易度が大幅に高くなります。
そういう経験をして「これじゃダメだ」という危機感を抱き、また休みの日を使って自習室に籠る、という……。
__当時の体験は、今に活きていますか?
峯田:はい。単純に技術力という意味でも確実に活きていますし、現場での経験や座学を通じて蓄える知識の大切さを身をもって知ることができたという意味でも、私にとって大きな糧になっています。
だからこそ、今も私は患者様と現場で向き合いながら、常に知識の更新をするよう心がけているんだと思いますね。
__今日は貴重なお時間をありがとうございました。
まとめ
峯田先生は、2024年12月現在、以下の5つの歯科医院に出勤されています。
医院名(五十音順) | 所在地 | ホームページ |
医療法人おくだ歯科医院(当院) | 大阪市淀川区十三本町2-1-26 十三NLCビル7F | https://okuda-dental.jp/ |
すずらんデンタルクリニック | 兵庫県姫路市西中島280-7 | https://www.suzuran-dentalclinic.jp/ |
なかたに歯科クリニック 土佐堀 | 大阪府大阪市西区土佐堀2丁目3-5 旧菅澤眼科ビル2F | https://nakatanidc2021.com/ |
NAKANISHI DENTAL OFFICE<芦屋中西歯科医院> | 兵庫県芦屋市東山町2-7 コモドココ1階 | http://www.nakanishi-dental.com/ |
医療法人孝紀会 中西歯科医院 | 和歌山県和歌山市元寺町2-21 前田ビル1-2階 | https://www.nakanishi-dental.net/ |
歯医者で「もうこの歯は抜くしかない」と言われ、「なんとかして歯を残したい」と思っている方や「他の医師の意見を聞いてみたい」と考えている方は、ぜひ一度峯田先生に相談してみてはいかがでしょうか。
大阪・十三のおくだ歯科医院にご相談いただければ、緊急時はできる限り迅速に峯田先生に対応いただける他、歯周病を含めた多角的な検査やカウンセリングを通じて、お口の状態に合ったご提案をさせていただきます。

歯医者は「継続して通うこと」がとても大事です。当院にいらしてくれればもちろん嬉しいですが、「十三は遠くて…」という方はぜひ峯田先生が勤めておられる最寄りの医院までご相談ください。