デンタルコラム

インプラントの寿命を伸ばすために「本当に大切なこと」———Young ITI IMPLANT SCHOOLで講演をしてきました

みなさん、こんにちは。おくだ歯科医院院長の奥田裕太です。

寿命を延ばすためのメンテナンスで説明しているように、インプラントは一生物ではなく、寿命があるものです。ですからメンテナンスを始めとして、できるだけ長持ちさせるための方法がいくつかあります。

しかし私は、インプラントの寿命を伸ばすための本当に大切なことは、別のところにあると考えています。

今回はインプラント治療の経験がない、もしくは経験が浅い歯科医師向けの講座「Young ITI IMPLANT SCHOOL」で、私が講師としてお話しした内容をもとに、インプラント治療における本当に大切なことについてお話ししようと思います。

目次
  1. インプラント治療における「本当に大切なこと」
    1. 治療後40%以上が「インプラント周囲疾患」に
    2. インプラント周囲疾患は「予防」が最優先課題
    3. 本当に大切なのは「歯を失った原因」の究明と解決
  2. Young ITI IMPLANT SCHOOLについて
  3. まとめ

インプラント治療における「本当に大切なこと」

治療後40%以上が「インプラント周囲疾患」に

インプラント周囲疾患とは、歯茎や骨などインプラントの周りの組織に現れる病気のことです。

インプラントの周りの歯茎から出血があり、かつ骨が溶けていないものをインプラント周囲粘膜炎、歯茎から出血があり、骨も溶けているものをインプラント周囲炎と呼びます。

インプラント治療を受けた方のうち、かなりの割合がこのインプラント周囲疾患を発症しているとされています。

2017年に日本口腔科学会の学会誌『Oral Science in Japan』に掲載された論文では、33.7%の方がインプラント周囲粘膜炎を、9.7%の方がインプラント周囲炎を発症しており、合計で40%以上がインプラント周囲疾患にかかっていることがわかっています。

また、日本口腔インプラント学会の報告でも、インプラント治療後のトラブルの半分弱をインプラント周囲炎が占めています。

インプラント周囲疾患は「予防」が最優先課題

確かに、定期健診の実施の有無や歯科医院の技術レベルによってインプラント周囲疾患のリスクは変わるでしょう。

しかし、治療を受けた患者様の40%に術後の合併症が現れているという点だけを見れば、インプラント治療が果たして本当に優れた治療方法なのかという疑問さえ浮かんできます。

歯科医療界はこの事実を重く受け止めており、アメリカや諸外国でもインプラント周囲疾患への治療方法の研究が盛んに行われています。

にもかかわらず、現時点では有効な治療方法は見つかっておらず、歯科治療先進国であるアメリカの歯周病学会でも治療ガイドラインを作れずに、「どう予防するか」を最優先課題とせざるを得ないのが現状です。

本当に大切なのは「歯を失った原因」の究明と解決

インプラント周囲疾患の治療には大きく2種類があります。

歯周ポケット内の殺菌・洗浄や抗生物質の投与、ブラッシング指導・生活習慣改善指導といった非外科的な治療と、歯茎を切り開く切除療法や失った歯や顎の骨を取り戻す再生療法といった外科的な治療です。

確かにこうした治療にも一定の効果があるため、患者様の状態に応じて適切な治療方法を選ぶことは重要です。しかし本当に大切なのは、「歯を失った原因」の究明と解決だと私は考えています。

なぜなら歯周病が原因で歯を失い、インプラント治療が必要になった場合、歯周病の治療を徹底的に行わなければ、インプラント周囲疾患のリスクはどうしても高くなるからです。

あるいは、噛み合わせが原因で歯を失った場合、インプラント治療前に歯科矯正を受けていなければ、過剰な力が加わって被せ物が割れてしまったり、インプラントが抜けてしまったりというトラブルにつながります。

歯科医師の仕事はこのような事態を防ぎ、インプラントの寿命を最大化するとともに、患者様のQOL(生活の質)を維持・向上することです。

そのためインプラント治療をする歯科医師は、歯を失った原因を絞り込む診断力と、その原因を解決できる技術を身につけておく必要がある、というのが私の考えです。

Young ITI IMPLANT SCHOOLについて

Young ITI IMPLANT SCHOOLでは、ここまで見てきた内容をより専門的にお話ししました。

このYoung ITI IMPLANT SCHOOLの母体は、ITI(Internatioal Team for Implantology)という世界中のインプラントの専門家同士を結ぶネットワークで、スイスのバーゼルに本部を置く学術組織です。

Young ITI IMPLANT SCHOOLはITIの講座の一つで、治療技術の向上、現場に活かせる学術的な知識のインプットを目的に、1年間全12回のプログラムで開催されます。

対象はインプラント治療の経験がない、もしくは経験が浅い歯科医師の方々で、各回の講師を50歳以下のITIメンバーから選ばれた12名が担当し、それぞれの得意分野をテーマに講座を実施します。

プログラムは診察・検査・診断・治療計画といった基本から、インプラント治療のリスク、インプラント治療の被せ物やインプラント本体についての知識、再生療法を始めとする治療方法や治療に活用できるデジタル技術など、網羅的な内容になっています。

各回の講師陣も国内外で活躍される著名な先生方ばかりで、その中に加えていただけたことは、非常に光栄でした

まとめ

他の全ての歯科治療と同じく、インプラント治療のゴールも患者様の幸せです。そのためには対症療法ではなく、なぜ今のお口の状態になったのかという原因の究明と解決が大切だと私は考えています。

今回、ITIの先生方に講師として登壇する機会をいただき、文献を読み込んだり、自分が担当させていただいた患者様の治療を振り返ったりすることで、改めてこうした自身のスタンスが明確になり、歯科医師としての成長につなげられました。

講座でお伝えした言葉が偽りにならないよう、今後も日々真摯に患者様と向き合っていきたいと思います。

院長 奥田

何不自由なく好きな食べ物が食べられて、気兼ねなく口を開けて笑顔になれる。それが歯科医師として私が考える「患者様のQOL(生活の質)」です。そのために、患者様と二人三脚で共にお口の健康を守っていければと考えています。

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院長紹介

奥田 裕太

1982年生まれ。大阪十三で「おくだ歯科医院」を経営。大切にしているのは「患者様と一緒に悩み、一緒に成長し、笑える、二人三脚の治療」。

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