こんにちは、おくだ歯科医院院長の奥田裕太です。
「なんだか最近疲れやすくなった」
「風邪を引いてるわけでもないのに、頭痛やめまいが続いている」
「食欲がない」
「気分が落ち込みやすくなった」
こうした、いわゆる不定愁訴(漠然とした体調不良)を感じて病院に行ったものの、原因がわからず、困り果てている人はいませんか。
もしかするとそれは、歯ぎしり・食いしばりが原因かもしれません。
というのも歯ぎしり・食いしばりによって発症する顎関節症を患っている人の中には、お口とは別に体や心に様々なトラブルを抱えるケースがしばしば見られるからです。
ここでは歯ぎしり・食いしばりが引き起こすトラブルを紹介するとともに、その悪影響を緩和するための方法を解説します。
歯ぎしり・食いしばりはお口の問題「以外」にもつながる
「歯ぎしり・食いしばりなんて、自分はしていない」と思う人もいるかもしれません。
しかし、ある報告によれば夜間で8〜16%、日中で96%の人が歯ぎしり・食いしばりをしているとされています。
本来、1日のうち上下の歯が接触している時間は、合計しても20分足らず。歯や顎の筋肉・骨は、この時間に応じて作られています。
しかし歯ぎしり・食いしばりをしていれば、その時間はどんどん伸びていきます。
歯ぎしり・食いしばりをしているときの噛む力は、自分の体重の2倍〜5倍とされていますから、歯や顎の筋肉・骨にかかる負荷は想像以上に強くなります。
結果、歯ぎしり・食いしばりが続くと、以下のようなトラブルにつながります。
障害が起きる部位 | 具体的な症状 |
歯 | 歯の磨耗、歯の破折、歯がしみる、噛むと痛いなど |
歯周組織 | 歯肉炎、歯周疾患(歯周炎=歯槽膿漏) 顎関節痛、開口障害、カックン音など |
顎関節 | 顎関節痛、開口障害、カックン音など |
全身 | 顔面痛、頭痛、肩こり、腕のしびれ、腰痛など |
その他 | 舌痛症(舌に痛みが出る病気)、むちうち症状、倦怠感など |
これだけでも十分問題ですが、歯ぎしり・食いしばりが引き起こす問題は他にもあります。
歯ぎしり・食いしばりが続くと「顎関節症」という病気になることがあります。
この顎関節症の主な症状は、口を開けた時に痛みがあるという「開口時痛」、口が開かないという「開口障害」、あごで音がなる「関節雑音」といったものです。
しかし実は全身の気だるさや頭痛、めまい、吐き気、歩行困難、食欲不振、そこから派生してうつ病などにつながるケースもあります。
したがって「なんだか最近疲れやすくなった」「風邪を引いてるわけでもないのに、頭痛やめまいが続いている」といった、原因不明の症状に悩まされているのは、歯ぎしり・食いしばりのせいかもしれないのです。
歯ぎしり・食いしばりは「日中のもの」と「睡眠中のもの」で対処法が変わる
そもそも歯ぎしり・食いしばりとは何か?
ではどうすればいいのでしょうか。まずは、そもそも歯ぎしり・食いしばりとは何なのかを理解しておきましょう。
本来、食べ物を噛み砕くための筋肉(咀嚼筋)の役割は、食べ物を食べる(咀嚼)、食べ物や飲み物を飲み込む(嚥下)、喋る(発音)などの運動です。
一方、歯ぎしり・食いしばりはこうした運動とは関係がありません。
つまり歯ぎしり・食いしばりとは、何らかの理由によって、本来の機能とは無関係に咀嚼筋が異常に緊張して、歯を擦り合わせたり噛み合わせたりする「習慣」なのです。
そう、歯ぎしり・食いしばりは貧乏揺すりやペン回し、爪を噛む癖と同じ習慣なのです。だから治そうと思えば治すことが可能です。
日中の歯ぎしり・食いしばりは「認知行動療法」で
先ほど「夜間で8〜16%、日中で96%の人が歯ぎしり・食いしばりをしているとされている」と書きました。
すなわち歯ぎしり・食いしばりには日中にやるものと、睡眠中にやるものとがあるのです。
このうち、日中の歯ぎしり・食いしばりは「認知行動療法」で治すことができます。
なんだか難しいように思えますが、簡単に言えば「自分がどんな行動をしているかを知って、意識的に行動を変える」という治療法です。
歯ぎしり・食いしばりの場合は、以下のような形で認知行動療法を通じて治していきます。
- 歯医者や歯科衛生士から、「無意識のうちに歯ぎしり・食いしばりをしていますよ」という指摘を受け、自覚を促す。
- 家族などに「今、歯ぎしり・食いしばりしてない?」などといった形でときどき指摘してもらう。
- 冷蔵庫の扉やパソコンの画面の横、スマホの裏など、よく見る場所にシールやマークを貼り、目に入った時に歯ぎしり・食いしばりをしていないかを確認するようにする。
特にパソコンなどのように、前傾姿勢で指先を使う作業は歯ぎしり・食いしばりが起きやすいとされているので、注意が必要です。
睡眠中の歯ぎしり・食いしばりは「ナイトガード」で
日中の歯ぎしり・食いしばりに対して、睡眠中の歯ぎしり・食いしばりは意識的に行動を変えるということができません。
また歯ぎしり・食いしばりは治さない方がいい!?歯医者が教える正しい対処法とは?で詳しく解説していますが、睡眠中の歯ぎしり・食いしばりはストレスのコントロールに役立っている可能性があるので、むやみに治すと別の問題につながりかねません。
そのため、睡眠中の歯ぎしり・食いしばりは睡眠時専用のマウスピースである「ナイトガード」(上の写真のもの)を使用します。
これにより歯ぎしり・食いしばりを「治さず、緩和する」ことで、歯やあごへの負担を軽減するのです。
顎関節症を予防する「あご筋マッサージ&ストレッチ」もおすすめ
歯ぎしり・食いしばりによって緊張状態にあるあご周りの筋肉を、マッサージやストレッチでほぐすのも効果があります。
マッサージ&ストレッチする筋肉 | マッサージ&ストレッチの方法 |
咬筋(あごの付け根の筋肉) | あごの力を抜き、左右のエラの角から2~3cm斜め前にある咬筋を、指の腹で円を描くようにマッサージする。1回8〜12秒程度。 |
側頭筋(こめかみ付近にある筋肉) | あごの力を抜き、左右のこめかみを、指の腹で円を描くようにマッサージする。1回8〜12秒程度。 |
顎二腹筋(舌を支える舌骨につながる筋肉) | あごの力を抜き、両手の親指を使って、「左右のエラの角〜舌の真下」「舌の真下〜下顎の骨の先」をマッサージする。1回2往復。 |
お口全体 | 顔を上に向ける。6秒間口を大きく開ける。6秒開けたら、3秒閉じる。これを3回繰り返す。 |
上表の4つのマッサージ&ストレッチを、朝晩1セットずつ、あるいは「あごが疲れているな」と思った時にやることで、顎関節症などの予防効果が期待できます。
あごなどに痛みを感じる場合は、無理のない範囲でやるようにしてくださいね。
まとめ
歯ぎしり・食いしばりは放置しておくと、お口の中以外のトラブルにもつながります。
しかし正体を知って適切な対処法をとれば、悪影響を緩和することは十分可能です。
この記事を読んで、「たしかに自分は無意識のうちに歯ぎしりや食いしばりをしていることがある」ということに気づいた人は、ぜひ一度歯医者に行ってみてください。
おくだ歯科医院でも歯ぎしり・食いしばりによるお口のトラブルはもちろん、認知行動療法やナイトガードの提供も行なっておりますので、お気軽にご相談ください。きっとお力になれると思います。