みなさん、こんにちは。大阪・十三のおくだ歯科医院、院長の奥田裕太です。
健康寿命を縮める「飲み込みにくい」「むせやすい」にご注意くださいでは、噛む・飲み込むなどのお口の機能(口腔機能)の低下が招く、さまざまな問題についてお話ししました。
今回は、この口腔機能の1つ「噛む」に重要な役割を果たす、奥歯の重要性について、お話ししたいと思います。
歯周病や虫歯が進行すると、奥歯が抜け落ちたり、割れたり、治療のために抜歯が必要になる場合があります。
奥歯が失われたまま放置していると、「サルコペニア」「認知症」といった、QOL(人生の質)を大幅に低下させる病気のリスクが高まると言われています。
以下では奥歯の有無と、この2つの病気の関係性について解説するとともに、病気予防のために知っておいて欲しい、歯科医院での治療方法についてご紹介します。
奥歯の有無と「サルコペニア」
「サルコペニア」とは?
サルコペニアとは、病的に筋肉量や筋力が低下することを指します。「サルコ」は筋肉、「ペニア」は喪失という意味のギリシャ語です。
歩く、立ち上がるなどの動作に影響が現れ、転倒のリスクが高まったり、介護が必要になったりするほか、
- 骨折
- フレイル
- 肥満
- 脂質異常症
といった病気のリスクが高まります。また、
- 心臓疾患による死亡リスク
- 手術時の死亡リスク
- 総死亡リスク
が高くなることに加え、ガンになった場合の生存率が低下したり、手術時の死亡リスクが高まったりと、健康面で多くのデメリットが生じます。
奥歯とサルコペニアの関係
奥歯がなくなると、筋肉を作る栄養素が摂取しにくくなる
人間の体が筋肉を作るためには、タンパク質やビタミン、ミネラルを充分量摂取することが必要です。
これらの栄養素を含む食品と言えば、肉類や生の野菜類。しかし奥歯が失われると、噛む力(咬合力)が低下し、こうしたよく噛まなければ飲み込めない食品を食べることが難しくなります。
その結果、筋肉量や筋力が低下し、サルコペニアになる、と考えられています。
奥歯とサルコペニアの関係を示す研究
「高齢者の栄養状態・口腔機能状態とサルコペニアに関する研究」という、厚生労働省の長寿科学総合研究事業として行われた研究では、特に女性において、歯の本数と上下の歯が噛み合う面積の減少、噛む力の低下が、サルコペニアの発症に関係している可能性があるとされています。
また、2019年に、福岡の病院チームによって行われた「NST対象者の舌圧および現在歯数と栄養評価値との関連」(NST=栄養サポートチーム)という研究では、歯の本数とBMI(肥満度を判断する指数)の間に関係性があることがわかっています。
この結果は、「歯が少なくなると、噛む力が弱くなり、炭水化物や脂質の多い、柔らかい食品を食べることが増えるため、肥満になりやすい」という従来の説を裏付けています。
加えて、先ほど触れた、筋肉を作る食品の摂取量低下も示唆しています。
以上のことから、奥歯の有無とサルコペニアの発症には関連性がある、と言うことができるのです。
こんな人は要注意!
サルコペニアは、いくつかの方法でセルフチェックをすることができます。以下の方法で1つ以上に当てはまる方は、注意が必要です。
指輪っかテスト
- 両手の親指と人差し指で輪を作る。
- 利き脚とは逆の脚のふくらはぎのうち、一番太い場所に輪っかを当てる。
- 輪っかとふくらはぎの間に隙間がある場合は、サルコペニアの可能性が高い。
片足立ちテスト
- 両手を腰に当てて立つ。
- 片足を床から5cmほど浮かせた状態でいられる時間を計測する。
- 逆足も同様に行う。
- 片側でも8秒未満になった場合は、サルコペニアの可能性が高い。
5回立ち座りテスト
- 肘掛けのない椅子に座る。
- 両手を胸の前で交差させる。
- 足を肩幅に開く。
- 立ってから座る動作を、合計5セット繰り返し、その時間を計測する。
- 10秒以上かかった場合、サルコペニアの可能性が高い。
奥歯の有無と「認知症」
国民病の1つ「認知症」
2024年に厚生労働省が公表した推計によれば、2060年には日本の認知症患者が645万人に上り、65歳以上の高齢者の5.6人に1人が認知症という時代が来る、とされています。
また、2020年の調査によれば、「若年性認知症」と呼ばれる65歳未満の認知症の方の数は、推計で3万5,700人とされており、発症するのは高齢者に限らないこともわかってきています。
このようなことから、認知症はもはや国民病と呼べるほど、日本の深刻な問題となってきていると言えます。
奥歯を失うと、アルツハイマー型認知症のリスクが約1.5倍に
認知症の原因は多岐にわたります。脳の細胞の変化や、脳梗塞・脳出血等の血管のトラブル、頭の怪我や感染症、アルコールや薬物の過剰摂取、ストレスや睡眠不足のほか、遺伝的要因も挙げられます。
また、台湾での大規模な調査によれば、慢性的な歯周病が見られる人は、そうでない人よりも、認知症のうち最も多いアルツハイマー型認知症のリスクが1.7倍⾼くなったことが報告されているなど、歯周病と認知症の関係性も明らかになりつつあります。
そんな中、2024年1月に九州大学の研究チームが、65歳以上の約2万2千人のデータを分析し、お口の状態によって、以下の比率でアルツハイマー型認知症のリスクが高くなることを明らかにしました。
- 奥歯(奥から4本目までの歯)の噛み合わせが、一部失われている人は1.34倍
- お口全体で上下の歯が噛み合っていない、もしくは歯が全くない人は1.54倍
このように、奥歯の有無と認知症には、深い関係があるのです。
より長く、より健康でいていただくために
サルコペニアや認知症は、心身両面からQOLを低下させ、生活習慣病をはじめとする、さらなる負の連鎖につながっていく病気です。
いずれも予防、早期発見・治療が大切で、重症化すると治療に時間がかかったり、症状の改善が見込めない状態に陥ったりします。
こうした事態を防ぎ、より長く、より健康でいていただくためには、適切な歯科治療が必要不可欠です。
当院では、奥歯を失ってしまった患者様や失うリスクが高い患者様に対しては、インプラント治療を第一選択として提案し、適切な噛み合わせの早期復元を目指します。
仮にさまざまな事情により、インプラント治療が難しい場合でも、義歯(入れ歯)の使用をご提案し、できる限り「奥歯がない」という状態が続かないよう治療を進めます。
奥歯を失った原因が歯周病等のお口の病気にある場合、放置していると2本、3本と歯を失う可能性が高いため、奥歯の治療と合わせて原因疾患の治療も合わせて行います。
また、噛む力と各種疾患の関連性を考え、2024年秋頃までには、患者様の噛む力を計測できる体制を整える予定です。
奥歯の噛み合わせにトラブルがある患者様だけでなく、検査や治療の過程で噛む力に問題があると感じた患者様にも、ぜひご活用いただければと思います。
まとめ
「奥歯の1本や2本、なくなっても、他にも歯はあるんだから大丈夫。好きなものは食べられるし、体も元気!」
このように考えている人は少なくありません。しかし、今は兆候がなかったとしても、サルコペニアや認知症のリスクが高まっている可能性は十分あります。
- すでに奥歯がない
- 奥歯に痛みがある
- 周囲から口臭を指摘される
といった方は、健康寿命を延ばし、QOLの低下を防ぐため、早い段階で適切な治療を受けられることをおすすめします。
大阪・十三のおくだ歯科医院では、患者様の今だけでなく、将来を見据えた治療をご提案しています。「より長く、より健康でいたい」という方は、ぜひ一度当院までご相談ください。