歯周病は初期の時点では自覚症状がほとんどなく、知らない間に進行していくため「サイレントディジーズ(静かなる疾患)」の一つに数えられています(高血圧や糖尿病も同じように呼ばれることがあります)。
したがって自覚症状が出た頃には、すでに手遅れなほど症状が進行しているケースが大半です。
その状態で来院されても、歯科医師も「歯を抜いてインプラントにしなければどうしようもない」と言うほかありません。
インプラントには相応の費用がかかるのでためらう人もいるかもしれません。でも、かといって歯が抜けたままでは日常生活にも支障が出ますよね。
そのため、歯周病の症状を抑え、お口の健康を維持するためには対症療法的な「治療歯科」ではなく、「予防歯科」の視点から、長期的に適切な予防を行なっていく必要があるのです。
しかし、得てして予防というのは面倒なものです。
そこで以下では、「歯周病の予防をしておかないと大変なことになる」ということを理解してもらうために、歯周病の症状や歯周病と生活習慣病などの関係性、歯周病が深刻化してしまう理由などを解説していきたいと思います。
歯周病と生活習慣病などの深い関係とは?

「80歳になっても20本以上の自分の歯を保つことで豊かな人生を」を基本理念に掲げる全国組織8020推進財団が2005年に行なった調査によれば、日本人が歯を失う原因の第一位は歯周病、第二位が虫歯だとされています。
軽度のものも含めると、日本人の約8割が歯周病にかかっているという予測もあるほどですから、もはや歯周病は国民的な病気とさえ言えるでしょう。
歯周病には大きく4つのステージがあります。すなわち「歯肉炎」「軽度歯周炎」「中等度歯肉炎」「重度歯肉炎」です。それぞれの症状は下表の通りです。
歯周病のステージ | 症状 |
---|---|
歯肉炎 | 歯肉が赤くなってツヤが出たり、腫れたりする。歯磨きの際に出血することがある。 歯と歯肉の隙間にたまった歯垢が原因で、歯肉が炎症を起こした状態。 |
軽度歯周炎 | 歯肉の腫れがひどくなり、歯磨きをすると出血する。 歯と歯茎の間に「歯周ポケット」という隙間ができ、歯の土台の骨が溶け始める。 |
中等度歯肉炎 | 歯がぐらつき始め、硬いものは食べにくくなる。 歯の土台の骨がさらに溶けていき、歯周ポケットはさらに深くなる。 |
重度歯肉炎 | 歯肉が腫れて膿が出始める。放置し続けると歯が抜ける。 このとき歯の土台の骨は半分以上溶けている。 |
歯肉炎や軽度の歯周炎の状態で歯科医院に診てもらえば、数回の治療で健康な状態に戻すことができます。
しかし残念ながら中等度歯肉炎・重度歯肉炎になるまで放置をしてしまう患者様が大半です。
すると、どうしても大掛かりな手術が必要になったり、抜歯を伴う処置をしたりするほかありません。
また、近年の研究により、歯周病が様々な生活習慣病と深い関係にあることも判明しています。
例えば歯周病菌の中にはポルフィロモナス・ジンジバリスという種類の細菌がいます。
この細菌が作り出すジンジパインという物資は強力な酵素で、口の中から血管に侵入します。
これが心臓に到達すると心筋梗塞の、膵臓に到達すると糖尿病の、脳に到達するとアルツハイマーのリスクが数倍になると言われています。
実際、アルツハイマー型認知症の薬にジンジパインの作用を阻害する薬まで開発されています。
この他にも自律神経失調症、うつ病、脳血管疾患、誤嚥性肺炎、骨粗しょう症、肥満など、歯周病との関係性が明らかになっている病気はどれも厄介なものばかりです。
歯周病は緩やかに進行する「サイレントディジーズ」
にもかかわらず、歯周病を予防するために歯科医院に行こうという人は少数派です。
その理由は大きく2つあります。ひとつは歯周病が「つい放置してしまう病気」だからです。
- 歯ぐきに赤く腫れた部分がある。
- 口臭がなんとなく気になる。
- 歯ぐきがやせてきたみたい。
- 歯と歯の間にものがつまりやすい。
- 歯をみがいた後、歯ブラシに血がついたり、すすいだ水に血が混じることがある。
- 歯と歯の間の歯ぐきが鋭角的な三角形ではなく、うっ血していてブヨブヨしている。
- ときどき歯が浮いたような感じがする。
- 指でさわってみて、少しグラつく歯がある。
- 歯ぐきから膿み(うみ)が出たことがある。
引用:8020推進財団
8020推進財団は、上記の9つを歯周病のセルフチェック項目としてあげています。これを見ると、歯周病が「つい放置してしまう病気」になる理由が見てきます。
例えば歯ぐきの状態は、普通に生活しているだけではなかなか意識することはありませんし、普段から口臭に問題がある人ほど、その臭いに慣れてしまうので、意識しなくなりがちです。
9のような状態になれば「あれ、おかしいな」と思う人は多いかもしれませんが、それ以外は「気のせい」で済ましてしまう人が大半でしょう。
だから歯周病は、放置されがちな病気になるのです。
歯周病を予防するために歯科医院に行こうという人が少数派になるもうひとつの理由は、治療に努力と根気、場合によってはやや高額な費用がかかるからです。
歯周病の治療は、歯科医院で歯石や歯垢をとってもらったり、インプラント治療を受けたりして終わるわけではありません。
結局のところお口の健康は、患者様自身が毎日の生活の中でメンテナンスをして守っていくしかないからです。
そのためには今までの歯磨きのやり方や習慣を見直し、お口の中を清潔に保つための努力が必要です。
ところが歯磨きのやり方や習慣は、長い人生の中で癖になっているものですから、なかなか簡単に変えることはできません。
正しいやり方や習慣を身につけるためには、根気よく継続するほかないのです。

この他、喫煙習慣がある、間食が多い、疲労やストレスが多いといった生活習慣が、歯周病の原因になっている場合もあります。
さらに歯周病の根本的な治療には、保険外診療になるものが多く、保険診療よりも費用がかかることも少なくありません。
下図はおくだ歯科医院で行なっている歯周病治療を、保険診療と保険外診療に分類したものです。

現在の日本の制度のもとでは、歯周病治療に効果的な治療はどうしても保険外になってしまいます。
そのため費用を聞いて「今はまだいいかな……」と治療を先送りにしてしまうのです。
おくだ歯科医院が大切にする「予防歯科」の視点

2018年10月1日の時点で、65歳以上の高齢者は日本の人口の28.1%を占めています。
このままのペースで人口が減少すると、2065年には約2.6人に1人が65歳以上、約3.9人に1人が75歳以上になるとされています。
また、その頃には平均寿命も長くなり、最近ネットやテレビなどで取りざたされている「人生100年時代」も現実になっているかもしれません。
そこで考えて欲しいのは、今と同じように痛みなどの自覚症状が出てから歯科医院に行く対症療法的な治療をしていいのか、ということです。
前述した通り自覚症状が出てからでは手遅れになっていることも多いため、どうしても保険外診療のような費用のかかる治療になってしまいます。
効果的な治療が保険診療に組み入れられれば、それでもいいかもしれません。
しかし高齢化が進めば、国家から支出される医療費も今よりずっと増えているでしょうから、前掲したような保険外診療が、新たに保険診療になる可能性は低いと思われます。
すると治療費が払えない場合には、「長生きはできているけど、歯が痛くて(あるいは歯がなくて)食べたいものを食べられない」という状況になってしまいます。そんな老後を送りたいと思う人はいないはずです。
一方で、歯磨きなどの正しいお口のケアや生活習慣を身につけたり、歯科医院での定期的な処置を受けたりしていれば、歯周病などが原因で歯を失うこともなく、インプラント治療を受けるために高額な費用を支払う必要もありません。
おくだ歯科医院ではそうした「予防歯科」こそが患者様にとっての幸せだと考えています。
だからお口の中の問題だけでなく、生活習慣についても患者様と一緒に考えて、最良の方法を提案しているのです。
まとめ
「日本人の8割以上が歯周病」と言われていることからも、何も予防をしていなければ、たいていの人が歯周病になってしまうことがわかります。
しかも症状は知らない間に進んでいくわけですから、自覚症状が出た頃には手遅れです。
歯周病によって一度失った天然の歯は、二度と取り戻すことはできません。
インプラントにするにしても、歯周病ケアなどの「予防歯科」に比べて、費用が圧倒的に高くなります。
「長生きはできているけど、自分の歯で好きなものが食べられない」
そんな最悪の事態を避けるためにも、日頃からお口の健康と向き合って欲しい。予防歯科を重視する歯科医院として、心からそう思います。

「自分のお口の健康と、本気で向き合っていきたい」。そう思われる患者様を、当院は全力でサポートいたします。