みなさん、こんにちは。おくだ歯科医院院長の奥田裕太です。
先日、ODGCという勉強会に参加してきました。Orthodontic Diagnosis for General Cliniciansの頭文字をとったもので、以下のようなテーマで実績のある先生方の講義を受けることができる勉強会です。
- 補綴医(インプラントや被せ物等の治療を行う歯科医師)と、矯正を専門とする歯科医師が連携して治療を進めていくために必要な矯正歯科の知識を身につける。
- 長い将来にわたって、患者様のお口全体の健康を守るための診断力を高める。
「どうして連携が必要になるの?」「歯並びなんて、単なる見た目の問題でしょ」と考えている方も多いかもしれません。
そこで今回は、補綴医と矯正医の連携の必要性や、お口の健康における矯正治療の重要性について、簡単にお話ししたいと思います。
お口の健康のためには、矯正専門医との連携が不可欠
まずはなぜ補綴医(インプラントや被せ物等の治療を行う歯科医師)と矯正医の連携が必要なのかについて説明します。
矯正の難易度は小児期と中年期以降で大きく変わります。小児期の場合、矯正で移動させる歯のほとんどは虫歯にかかったことがないか、小さな虫歯にしかなったことがない天然の歯です。そのため比較的簡単に歯並びを整えることが可能です。
一方、中年期以降に矯正治療をする場合、お口の中が以下のような状態になっているケースが少なくありません。
- 大きな虫歯の跡があり、銀歯などの被せ物や詰め物が入っている
- 虫歯などで歯を失ったまま放置されている、もしくはインプラントなどが埋め込まれている
- 重度の歯周病にかかっている
- 斜めに生えた歯を数十年食事などで使ってきたことで、不自然な形に削れてしまっている など
矯正治療はお口の中の健康状態が良いほど、スムーズかつ効果的に治療を進めることができます。
そのため上記のようなケースでは、矯正前処置と言って、歯周病や虫歯の治療、歯の形を戻す樹脂を使った治療、被せ物の作り直し、必要に応じた抜歯など、スムーズな矯正治療のための準備を行う必要があるのです。
また、矯正治療が終了したあと、歯がない部分にインプラントを埋め込んだり、最終的な被せ物を取り付けたりといった治療を矯正後処置と呼びます。補綴医から矯正医、矯正医から補綴医という流れで治療が進んでいくわけです。
そのため正しい矯正治療を行うためには、両者がしっかりと連携し、事前に同じゴールを共有したうえで、それぞれの役割を果たすことが必要不可欠なのです。
「歯並びは見た目だけの問題」ではありません
「歯並びなんて単なる見た目の問題でしょ。それにお金や手間をかける必要ってあるの?」と思われる方もいるかもしれません。
実際、日本人の約60%の人が歯並びに問題があり、矯正治療が必要だとする見解もありますが、矯正治療を受けているのは全人口の20%程度だとされています。
しかし、いわゆる「出っ歯」「受け口」のほか、前歯の噛み合っていない歯並びの人は、単に見た目の問題だけでなく、次のようなトラブルのリスクが高まります。
- 食べ物が咬みにくい
- 歯周病や虫歯のリスクが高まる
- 口臭の原因になる
- 顎の関節への負担が大きくなる
例えば歯周病が進行すると、歯が抜けてしまうだけではなく、糖尿病などの生活習慣病のリスクが高まるなど、命や人生の質(QOL)に大きな影響が及ぶ可能性があります。
だからこそ、補綴医と矯正医がしっかりと連携し、時間と手間をかけて治療をする必要があるのです。
日本とアメリカで「歯への意識」はこんなにも違う
前述した「矯正治療を受けているのは全人口の20%程度」という数字は、先進国の中では最低レベルとされています。
一方、矯正先進国とされるアメリカでは、中流以上の家庭の子供はほとんど全員が矯正治療を受けている、とも言われています。
なぜこんなにも日本とアメリカで歯への意識が違うのでしょうか。私は大きく3つの理由があると考えています。
証明写真の撮り方
1つは証明写真の撮り方。日本では真面目な顔をして、口を閉じているのが証明写真のスタンダードです。これに対してアメリカでは前歯を見せて、にっこり笑って撮影するのが一般的です。
証明写真は日米問わず、大事な書類や手続きに使う写真です。そういった場面で歯並びが人目に触れるのかどうかは、矯正治療を受けるかどうかに影響しているのではないでしょうか。
八重歯に対する美醜の基準
2つ目は八重歯に対する美醜の基準です。日本では八重歯の女性に好感を抱く男性が多いのかもしれませんが、アメリカでは真逆。ドラキュラの歯と言われ、宗教的に敬遠されることも多いそうです。
歯学的に言えば八重歯は立派な「悪い歯並び」ですが、社会的に美しい・可愛いとされる日本では、それをわざわざ治療しようと思う人が少ないのも無理はないのかもしれません。
健康保険の有無
3つ目は健康保険の有無です。アメリカには日本のような健康保険制度がないため、全ては自費診療です。
そのためアメリカの人たちは、できるだけ虫歯や歯周病にならないよう歯磨きや定期検診を欠かしません。矯正治療も、虫歯や歯周病などになる将来的なリスクを抑えるために、小さい頃から受けさせるのです。
彼らはできるだけ若いうちに矯正治療を施すことが、子供の将来の生活と健康に大きな影響をもたらすことを知っているのです。
これに対して日本は健康保険制度が充実しているので「虫歯になれば、歯医者に行けばいい」という意識が根付いています。だからこそ「わざわざ自費診療で矯正治療を受けなくても良い」と考えてしまうわけです。
将来を考えるなら、早めの矯正治療を
このように、日本には矯正治療が浸透しない要因がいくつかあります。しかし前述したように、歯並びの問題を放置していると、見た目だけでなく様々な健康上のリスクが高まります。
それはQOLを下げてしまうだけではなく、治療費という経済的なコストにもつながっていきます。したがって将来のことを考えるのであれば、早めに矯正治療を受けることをおすすめします。
まとめ

今回のODGCでは、多くの実績をお持ちのさかい歯科(大阪・枚方)の酒井志郎先生のお話を聞くことができました。
矯正治療には約2〜3年の期間が必要な場合も少なくありません。先生のお話によれば、矯正後にインプラントや被せ物の補綴治療をする場合、初期の段階で非常に細かな診断が必要であるとのことでした。
具体的にどのようなポイントを考慮して診断を行うべきかを学べたとともに、私自身これまで以上に丁寧に患者様と向き合っていく必要があると身の引き締まる思いをさせていただきました。
土曜日に連続でお休みをいただき、患者様にはご迷惑をおかけしましたが、この知識をスタッフと共有し、皆様に還元できればと考えています。

今回のブログをお読みになって、少しでも自分の歯並びが気になってきたという方は、お気軽に当院までご相談ください。多角的な視点で、お口の健康状態を診断させていただきます。