こんにちは、おくだ歯科医院院長の奥田裕太です。
歯並びや歯ぎしりは、歯周病や歯を失うリスクに関係はありますか?
これは日々診察をしていると、患者様からよくされる質問です。答えは「あると“考えています”」です。
こんな曖昧な答えかたをするのは、実のところ科学的にしっかりとした根拠があるわけではないからです。
しかし同時に、歯並びが悪かったり、歯ぎしりをしていたりするのなら、矯正やナイトガードなどの適切な治療をした方が歯周病や歯を失うリスクは下がるとも考えているのです。
なので私は、治療しないよりはやっておいた方が良い、というスタンスから、患者様に治療計画のご提案をしています。
今回はこの、歯並び・歯ぎしりと歯周病や歯を失うリスクの関係性について、より詳しく、できるだけ正確に、解説していきたいと思います。
歯並びと歯周病や歯を失うリスクの関係性
今のところ「歯並びが悪い=歯周病になりやすい、歯を失うリスクが高い」という科学的な根拠はありません。そのため、両者に直接的な関係があるとは言えません。
しかしながら、
- 歯並びが悪ければ歯磨きがしにくいので、磨き残しが増え、結果として虫歯や歯周病になりやすい。
- 歯周病になりやすければ、歯の土台となる骨が歯周病菌によって溶け、歯が抜けやすくなる。
これらは直感的にわかるレベルの、単純な話です。
また日本歯周病学会が発行している『ガイドライン(指針)』でも、以下のような治療指針が示されています。
- 歯周病はプラーク(歯垢など)が原因となって発症する病気であり、このプラークの量を(歯磨きなどによって)コントロールすることが予防・治療の基本である。
- プラークコントロールの邪魔になるような歯並びの場合は、矯正治療によって(歯並びをきれいにすることで)歯周病の治療の効果を高められる。
- 矯正治療はプラークリテンションファクター(プラークが蓄積しやすい環境)の改善につながる。
※()内筆者補
つまり歯並びが悪い場合は、適切な治療をすることで歯周病の改善が見込め、歯を失うリスクも小さくできる、ということです。
あくまで両者の直接的な関係は証明されていませんが、関係性が高いことは示唆されています。だから私は「歯並びの悪さが、歯周病や歯を失うリスクを高める可能性がある」と考えているのです。
歯ぎしりと歯周病や歯を失うリスクの関係性
では歯ぎしりに関してはどうでしょうか。
一部の歯に強い力がかかると歯周病が進行するという研究結果もあれば、進行しないという研究結果もあるため、科学的に「歯ぎしりが直接的に歯周病の進行に影響を及ぼす」ということは証明されていません。
しかし、一方でこんな調査結果もあるのです。
厚生労働省主導の8020運動(「80歳まで20本の歯を残しましょう」という運動)に関する調査で、80歳の時点で20本の歯が残っていた人(達成者)と、いなかった人(未達成者)を比較した結果です。
- 達成者の84.6%は噛み合わせに問題がなく、15.4%は上顎前突(出っ歯)であった。
- 反対咬合(受け口)、開口(前歯が噛んでいない)人は一人もいなかった。
科学的な根拠が挙げられていない以上、あくまで私見でしかありませんが、私はこの調査結果から、一部の歯に強い力がかかる状況が10年、20年と続いた場合には、それが原因で歯周病が進行したり、歯が抜けてしまったりするのではないかと考えています。
一部の歯に強い力がかかる状況とは、噛み合わせに問題があったり、歯ぎしりをしたり、といったことです。
というのも、歯周病で歯が弱っているところに、噛み合わせや歯ぎしりが原因で強い力(数百kgとも言われます)がかかれば、何かしら問題が起きても不思議ではありません。
また、歯周病菌はお口の中に均等に存在するにもかかわらず、歯周病になるのは前歯や奥歯など一部の歯だけ、ということも少なくありません。このことからも、両者の関係性が示唆されています。
だから私は、「歯ぎしりがある場合、歯周病や歯を失うリスクは高くなる」と考えているのです。
まとめ
お口は日々の生活で絶えず使うもの。歯周病が進行したり、それに伴って歯を失ったりすれば、QOL(人生の質)は大きく低下してしまいます。
確かに、歯並び・歯ぎしりと歯周病や歯を失うリスクの関係性は、科学的に証明されたものではありません。しかし同時に、関係性が全くないという証拠がないのも事実です。
であれば私は、できるだけ患者様のリスクを抑える治療を提供したい。
だから歯並びや噛み合わせに問題があれば矯正治療を提案しますし、歯ぎしりの兆候が見られればナイトピースの使用を提案するのです。
お口の健康がQOLに大きな影響を与える以上、リスクは低いほど良いはず。そのためにも、歯並びや噛み合わせ、歯ぎしりといった問題には、早期に対処する方が賢明だと考えています。