皆さん、こんにちは。大阪・十三のおくだ歯科医院、院長の奥田裕太です。
これは当院に限ったことではないかもしれませんが、患者様の中には一定数、治療の途中で通院を止めてしまう方がいらっしゃいます。
治療に疲れてしまったのか、何か嫌なことがあったのか……確かな理由はわかりませんが、私たちとしては、自分たちに問題があったのではないかと申し訳ない気持ちになります。
一方で、一度ドロップアウトしたものの、何らかの理由で自ら通院を再開する方もいます。最初は皆さん気まずそうに来院されますが(笑)、当院ではこうした方々に対して、怒ったり、小言を言ったりすることはしません。
むしろ「悪化する前の段階で来てくれてありがとうございます」と思っています。なぜなら、治療の途中で放置してしまうと、せっかく治療を進めた歯だけでなく、他の歯まで台無しになってしまうかもしれないからです。
今回は歯科医院への通院を途中で止めてしまった人でも、遠慮なく通院を再開して欲しい理由を、専門家の立場からお話しします。
通院を途中で止めてしまった人は少なくない
私たち医療従事者は、お口の健康を保つためには「治療が完全に終わるまで通院を続けること」「健康診断に定期的に通い続けること」がとても大事だと考えています。
しかし、実際に歯科医院に通い続けるのは大変です。通院を再開した方に一度ドロップアウトした理由を聞くと、私たちとしても納得のいくものもたくさんあります。例えば、
- 忙しさのため時間が取れなくなった
- 経済的な理由で費用が払えなくなった
- 引っ越しで通院先から遠くなってしまった
- 家族の介護など、優先すべき事情が発生した
- 別の健康問題が発生し、そちらの治療を優先するようになった
- 新型コロナウイルス等への感染リスクの不安(当院の感染対策についてはこちら)
- 通院のためのサポート(同行者や送迎)が得られなくなった
といった理由です。そこからもう一度通い始めるのが気まずいのも、心情としてはよくわかります。
しかし、やはり歯の医療に従事する者としては、通院の中断にはリスクがあることをお伝えしておきたいのです。以下では、
- 虫歯が「仮歯」のまま、治療を中断するリスク
- “神経の治療”の途中で「痛くなくなったから」行かなくなるリスク
- 歯周病の治療を「血が出なくなったから」中断するリスク
- 「治療が終わったと言われたから」定期検診に行かなくなるリスク
という4つのパターンについてご紹介します。
虫歯が仮歯のまま、治療を中断すると
虫歯を取り除く。レジンという歯科用プラスチックでできた仮歯を詰める。あらかじめ採った型を使って最終的な詰め物・被せ物を作成したら、仮歯を外して付け替える。
細かい説明を省けば、虫歯の治療はおおむねこのような流れで進めていきます。仮歯の主な役割は5つあります。
- 虫歯を削った後の歯の保護
- 見た目
- 歯の移動を防ぐ
- 機能(食事・会話)の維持
- 最終的な詰め物・被せ物の事前テスト
「これだけの役割を果たしてくれるなら、仮歯でもう十分じゃないか」と思うかもしれません。
しかし、仮歯はあくまで「仮の歯」です。次の診療で最終的な詰め物・被せ物を取り付けるまで保てばいいというものなので、耐久性や精度は考えられていません。
そのため、仮歯のまま治療を中断すると、生活をするうちに外れてしまったり、隙間に細菌が入り込み、増殖して、虫歯が再発したりする可能性が高くなるのです。こうなればもちろん、詰め物・被せ物も作り直しです。
しかも虫歯が発生するのは、前回の虫歯を削った後の部分なので、たいていはさらに踏み込んだ治療が必要となり、治療期間も長くなり、治療費用もかさみます。
だから、仮歯が入ったからと言って、途中で虫歯の治療を中断してはいけないのです。
神経の治療の途中で「痛くなくなったから」行かなくなると
虫歯が進行すると、天然の歯を残すために、歯の根っこにある歯髄(しずい、歯の神経)だけを取り除く治療が行われる場合があります。これを根管治療と言います。
この段階まで虫歯が進むと、神経にも炎症が及んでいるので、かなりの痛みを感じますが、治療によって神経を抜くと痛みを感じるセンサーがなくなるので、痛みは治ります。
通常はこの後、仮歯の期間を経て、最終的な詰め物・被せ物を装着するのですが、「痛みがなくなった=治った」と考えて、通院を止めてしまう方がいます。これは、先ほどの「虫歯が『仮歯』のまま、治療を中断する」よりも注意すべきパターンです。
なぜなら、治療途中の歯の根っこには細菌が残っている場合もあるため、歯の内と外、両方から細菌の攻撃を受ける可能性があるからです。
しかも、仮に虫歯が悪化したとしても、痛みのセンサーである神経がないため、気づかないうちにどんどん症状が進行していきます。こうなると、ほとんどのケースで歯を抜かざるを得ません。
このような事態を避けるためにも、痛くなくなったからと“神経の治療”の途中で通院を止めてはいけないのです。
歯周病の治療を「血が出なくなったから」中断すると
症状の進行具合にもよりますが、一般的な歯周病の治療は以下の3つを中心に進めていきます。
- スケーリング:歯石や歯垢の除去
- デブライドメント:歯の根っこの部分の歯垢の除去
- 歯磨き指導
「出血がある」「歯のぐらつきがある」などの症状があり、歯周病が進行しているほど、きれいに歯石や歯垢を除去するのは難しくなるため、何回かに分けて治療を進める必要があります。外科的な処置を行う場合は、より治療に時間がかかります。
しかし治療が完全に終わっていなくても、その過程でお口の健康状態が改善していくと、「歯茎の腫れ」や「出血」などの症状が治る場合があります。
患者様の中にはこうした症状の改善が見られると、「もう治った」と考えて、治療を途中で止めてしまう方がいるのです。
すると、歯と歯茎の間(歯周ポケット)に繁殖している細菌は、治療が中止されたことで引き続き活動を続けます。歯茎に炎症を起こさせ、骨を溶かし、どんどんお口の健康をむしばんでいくのです。
結果、再び歯周病が悪化し、治っていた歯茎の腫れや出血も再発します。治療の中止期間にもゆっくりと症状は進行していくため、いざ通院を再開した時には、通院を止める前より症状が悪化している可能性も考えられます。
だから、血が出なくなったからといって歯周病の治療を中断してはいけないのです。
「治療が終わったと言われたから」定期検診に行かなくなると
お口の病気の多くは、症状が進行するまで痛みなどの自覚症状が現れません。
しかし自覚症状が現れた頃にはかなり重症化していることが多く、歯を抜くなどの取り返しのつかない事態になったり、治療期間の長期化、費用の増大につながる傾向があります。
これを防ぐために、歯科医院では治療が終わった後、患者様の体質などに合わせて定期検診を行います。特に歯周病は現代の医学では完治させられないため、定期検診による症状のコントロールが非常に重要です。
したがって、治療が終わったと言われたからといって定期検診に行かなくなると、また重度の虫歯になったり、歯周病が悪化したりするリスクが高まるのです。
確かに痛みなどの症状がないのにもかかわらず、定期的に歯科医院に通うのは面倒かもしれません。定期検診にもお金はかかるため、納得がいかないという患者さんもいるでしょう。
しかし2009年に行われたトヨタ関連部品健康保険組合と豊田加茂歯科医師会の共同調査によれば、歯の定期検診を受けている人ほど、生涯医療費が安く済んでいるということがわかっています。
逆に言えば、定期検診を受けずにいると、定期検診をきちんと受けていた場合よりも歯科医院に通う回数は増え、期間も伸び、治療費が高くつく可能性がある、ということです。
ですから、もし現在定期検診を中断していても、手遅れになる前に、気が向いた時でもいいので歯科医院に行くことをおすすめします。
まとめ
皆さんは、ふと「あの日以来歯医者に行かなくなったけど、このまま放っておいて大丈夫なのかな?」と不安に思ったからこそ、今回のデンタルコラムに目を通してくれたのではないでしょうか。
もしそうなら、今がまさに「通院を再開するベストタイミング」です。ここで紹介したような事態を避けるためにも、なるべく早くかかりつけの歯科医院に相談しましょう。
「治療途中の歯」は「修理の工事を途中で止めた家」のようなもの。放置していれば、傷んで住めなくなってしまいます。そうなる前に、きちんと治療を終わらせ、お口の健康を守りましょう。
「どうしても、通っていた歯医者に連絡するのが気まずい」と言うのであれば、当院に相談いただいても構いません。できれば以前通っていた歯科医院の治療記録やカルテがあった方が助かりますが、難しければなくても対応は可能です。