デンタルコラム

 「この歯は抜くしかない」と言われたあなたへ──歯周病認定医が伝えたい“後悔しないための考え方”

施術中の院長

「この歯はもう、抜くしかないですね」

抜歯と聞くと、多くの人が不安や恐怖を感じて、「できれば避けたい」と思うもの。

インターネットやSNSを見れば「抜かずに残せる!」「インプラントにすれば安心」といった、情報が溢れ、何を信じればいいのか分からなくなることもあるでしょう。

けれど、“抜く”か“残す”かという判断には、実はそれぞれに医学的な理由があります。

そもそも、なぜ歯を抜かなければならない状態になったのでしょうか?

公益財団法人8020推進財団「平成30年(2018年)の第2回永久歯の抜歯原因調査」によれば、日本人の成人が永久歯を抜く原因の第一位は歯周病です。

そこで今回は、当院(大阪十三のおくだ歯科医院)の院長であり、日本臨床歯周病学会認定医でもある奥田裕太先生にインタビューを実施。

後悔しない歯科治療を受けるために、患者様に知っておいて欲しいことについてお話を伺いました。

目次
  1. 「この歯は抜くしかない」と言われた時、まず考えるべき“3つの問い”
    1. なぜ抜くしかないと言われたのか?
    2. どうしてそんな状態になってしまったのか?
    3. 自分にとって、その歯にはどれだけ思い入れがあるのか?
  2. 「抜くしかない」と言われた歯を残す“リスク”
  3. 保険治療でできること、自費治療でなければできないこと
  4. 「変わりたい」と思う人の、“頼れるパートナー”でありたい
  5. まとめ

「この歯は抜くしかない」と言われた時、まず考えるべき“3つの問い”

院長(インタビュー中)

なぜ抜くしかないと言われたのか?

__「この歯はもう、抜くしかないですね」と歯医者さんから言われて動揺してしまう方は多いと思います。実際にそう言われたとき、まず何から考えればいいのでしょうか?

奥田:まず最初に考えてほしいのは、「なぜ抜くしかないと言われたのか?」という点です。

同じ“抜歯宣告”でも、その理由は人によってまったく違いますから。

虫歯が進行して歯が割れている場合もあれば、歯の中の神経が原因になっている場合もある。

歯周病が進んで、歯を支える骨が溶けてしまっているケースもあります。

たとえば私の専門である歯周病の場合、歯そのものはまだしっかりしていても、骨の状態を見て抜歯を検討することもあります。

逆に、骨が歯周病で溶けてしまっていても、状況によっては保険治療で骨を再生させられる可能性もあるわけです。

だからまず知るべきは原因。それが分かって初めて、「本当に抜くしかないのかどうか」を判断できます。

どうしてそんな状態になってしまったのか?

__では、次に考えるべきことは何でしょうか?

奥田:「どうしてそんな状態になってしまったのか?」ということですね。特に歯周病の場合、これはとても大事です。

歯周病は糖尿病や高血圧症と同じ生活習慣病で、“静かに進む病気”です。

痛みも腫れもなく悪化していくことが多いので、毎日の歯磨きで取りきれない汚れが少しずつ溜まり、知らない間に歯ぐきの中で炎症を起こし、やがて歯を支える骨を溶かしていきます。

喫煙や糖尿病、歯ぎしり、噛み合わせの不良なども歯周病のリスクを高めます。

また、歯科医院での定期検査を受けているかどうかも大切です。きちんとした検査を受けていれば、症状が悪化する前に適切な対応ができますから。

こうした生活習慣や全身の状態、お口の健康との向き合い方を振り返ってみて、何が原因で今の状態になってしまったのかを考えてみてください。

歯を抜くにしろ、抜かないにしろ、これを自覚できているかどうかが、その後の治療を成功させるために不可欠です。

自分にとって、その歯にはどれだけ思い入れがあるのか?

奥田:そのうえで考えて欲しいのが、「自分にとって、その歯にはどれだけ思い入れがあるのか?」です。

__思い入れ、ですか?

奥田:そうです。意外かもしれませんが、ここが一番大事なんです。

医学的には「残す方法があっても、抜いたほうがいい歯」と判断する場合でも、患者様にとっては「どうしても残したい歯」であるケースは少なくありません。

でも、“残すこと”が目的になってしまうと、他の歯に負担をかけたり、口全体のバランスを崩すこともあります。

だから「なぜその歯を残したいのか」、そのために「どこまで費用と時間をかけて治したいのか」を考えてみてほしいんです。

「抜く/抜かない」の判断を他人任せにせず、自分の価値観で決めること。

それが大切です。

私たちの仕事は、患者様がその判断を納得して行えるように、情報を整理し、リスクや可能性を分かりやすく伝えること。

おくだ歯科医院では、CT撮影や歯周ポケットの再評価など、診断の根拠を一緒に確認しながら、最適な治療方針を、患者様と話し合って決めていきます。

焦って結論を出す必要はありません。

現時点でのお口の状態を知り、今後どんな生活を送っていきたいのかを丁寧に考えることが、後悔しない選択につながります。

「抜くしかない」と言われた歯を残す“リスク”

歯石除去に使う器具

__今「残すことが目的になってしまうといろいろなデメリットもある」というお話がありましたが、歯を残す“リスク”もあるんでしょうか?

奥田:たくさんありますね。

例えば右下の奥歯がぐらぐらしていたり、痛みがあるとします。するとこれをかばって、左の奥歯で食事をするようになりますよね。

これを続けていると、左の顎関節や歯に負担が集中し、歯が割れたり、歯周病が進んだり、顎関節症を引き起こしたりするリスクが高まります。

また、歯周病を放置することによる全身へのリスクも無視できません。

歯周病菌が作り出すジンジパインという毒素は、お口の中の血管を通じて全身に広がり、糖尿病や動脈硬化、心筋梗塞や脳卒中といった病気のリスクを高めることがわかっています。

__「歯はできるだけ残したほうがいい」と思っていましたが、そうではないんですね。

奥田:大切なのは「何本残すか」ではなく、「残った歯でどれだけ快適に噛めるか」です。

昔は「80歳で20本残そう」という8020運動が広く知られていましたが、今の歯科界では、“本数”よりも“機能的に噛める状態”を保つことが重視されるようになっています。

たとえば、歯が24本残っていても、噛むと痛かったり、うまく力がかからなかったりすれば、食事を楽しむことはできません。

それよりも、20本でもしっかり噛めて、痛みのない口のほうが、生活の質(QOL)はずっと高いと言えます。

__なるほど……。とはいえ、「できるだけ抜きたくない」と思う患者様も多いと思います。そんなとき、どう考えればいいでしょうか?

奥田:抜歯が必要な場合に大切になるのは、納得して決めること

もし「抜かない方法があるんじゃないか」と感じたなら、納得いくまでいろいろな歯科医師に意見を聞くことも一つの選択です。

実際、他院で「抜歯するしかない」と言われて、当院に相談に来られた患者様の中には、生活習慣の見直しと治療に取り組んで、歯を残すことに成功した方もいらっしゃいます。

一方で、当院でも精密検査を行い、やはり抜歯が最善だと判断したケースもあります。

その場合も患者様は、歯科医師や歯科衛生士とじっくり話し合い、納得のうえで決断されています。

保険治療でできること、自費治療でなければできないこと

施術中の院長②

__歯の治療で気になることといえば、やはり費用のことです。「抜くしかない」と言われた歯を治療するには、やはりたくさん費用がかかるものでしょうか?

奥田:ケースによりますが、「必ず高額になる」というわけではありません

保険治療の範囲でも、歯周病の進行を止める・歯を安定させる・炎症をコントロールするといったことは十分に可能です。

ただし、保険制度は“必要最低限の機能回復”を目的として設計されているので、使える材料や治療方法には明確な制限があります。

ですから、お口の状態によっては対応しきれない場合も出てきます。

__「必要最低限の機能回復」というのは、どういう意味でしょうか?

奥田:日本の保険制度では、誰でも平等に医療を受けられるよう、「最低限の生活機能を守ること」を目的に治療内容が定められています。

たとえば、歯を支える骨を再生させる治療の場合、保険で使える材料は「リグロス」という薬剤に限られます。

これは保険診療として正式に認められている再生材料で、ある程度の骨再生が期待できます。

一方で、「より広い範囲の骨を再生させたい」「審美性や精度にもこだわりたい」といった場合には、自費治療(自由診療)を検討する必要があります。

具体的には「エムドゲイン」や「GTR法(メンブレンを使った再生療法)」といった選択肢ですね。

__なるほど、やはり自費治療の方が自由度が高く、良い治療が受けられるんですね。

奥田:いえ、自費診療であれば何でも優れている、というわけではありません

__え、そうなんですか?

院長(インタビュー中)②

奥田:はい。大切なのは「自分の目的に合っているかどうか」です。

たとえば、「歯ぐきが腫れていて、噛むと少し痛い」程度の中等度の歯周病なら、保険診療で行うスケーリング(歯石除去)やSRP(ルートプレーニング)、そして定期的なメンテナンスだけでも十分に改善が見込めます。

それにもかかわらず、「再生療法をすればもっと良くなるかも」と思っていきなり自費治療を選んでしまうと、費用も時間も、必要以上にかかってしまうことがあります。

というのも、再生療法を行う場合は、術前のクリーニングや炎症コントロールを徹底してからでないと、効果が出にくいんです。

実際、私は患者様に「今の段階で自費治療をしても成果が出にくいですよ」とお伝えすることもあります。

保険治療は「最低限のことしかしない」と思われがちですが、基礎をしっかり整えるという点では非常に重要なステップなんですよ。

逆に、重度の歯周病で骨の吸収が大きい場合や、被せ物をやり直して全体の噛み合わせを再構築する必要がある場合は、保険治療だけでは対応が難しいこともあります。

そういうケースでは、自費治療を選ぶことで問題を解決できる可能性が見えてくるかもしれません。

大切なのは、「どんな治療を受けるか」ではなく、「どんな状態を目指すか」なんです。

「変わりたい」と思う人の、“頼れるパートナー”でありたい

仕事中の院長

__では最後に、院長が思う「自分の歯」を守るために、一番大切なことを教えてください。

奥田:一番大切なのは、信頼できる歯科医師を見つけることだと思います。

歯を守るための治療は、一回きりで終わるものではありません。歯周病は生活習慣病ですから、日々の習慣を整え、続けていく力が必要です。

そのためには、自分を正しい方向に導いてくれるパートナーのような存在が欠かせません。

__“パートナー”というのは、どんな歯科医師のことを指すのでしょうか?

奥田:「患者様と同じ目線で考え、導いてくれる人」じゃないかな、と思います。

「どうすれば再発を防げるか」「どうすればこの人が変われるか」を一緒に考えてくれる医師ですね。

たとえば、食事や睡眠、ストレスなど生活全体についてのヒアリングをしたうえで、お口の健康に影響する部分を一緒に見直す。

あるいは、糖尿病の数値を把握したうえで、きちんと生活習慣の改善ができているかを細かくヒアリングし、患者様の生活に合った提案やアドバイスをする。

日本糖尿病学会登録歯科医証
奥田院長が保有している、日本糖尿病学会登録歯科医証。

__そこまでする理由は何ですか?

奥田:繰り返しになりますが、歯周病は生活習慣病ですからね。こうした細やかなサポートが、長期的な治療成果を左右するんです。

ただ実際のところ、こうした細やかな指導に対しては、医療制度の上ではほとんど報酬が発生しません

歯磨き指導や生活習慣のアドバイスをどれだけ丁寧に行っても、「指導した」という事実があればそれで算定上は同じなんです。

__なるほど……。制度上の限界もあるんですね。

奥田:そうなんです。ですから、たくさんの患者様を短時間で診ていくスタイルの先生を「悪い」とは思いません。

それはそれで、より多くの人を助けたいという志の形だからです。

ただ、私自身は「深く関わること」を大事にしています。

お口の健康を守るためには、生活習慣を整える必要があります。これは簡単なことではありません。少なからず「自己変革」が求められるからです。

患者様が“それでも変わりたい”と思ったときに、その気持ちに寄り添い、最後まで伴走できる存在でありたい。

それが、おくだ歯科医院の目指す姿です。

まとめ

「この歯はもう抜くしかない」と言われたとしても、諦める必要はありません。

歯の状態によっては残せるかもしれないからです。

しかし同時に「抜歯=最悪の結果ではない」ということも知っておいてください。

大切なのは、

  • 今の自分のお口の状態を理解すること
  • どんな結果を望むのかを、自分で考えること
  • 問題を解決するために何をするべきなのかを知ること

です。

大阪・十三のおくだ歯科医院には、歯周病認定医の他に日本歯周病学会専門医同認定衛生士、歯内療法学会専門医が在籍しており、患者様のさまざまなお悩みに対応できる体制を整えています。

もし「抜くしかない」と言われて迷っている方は、ぜひ一度、私たちにご相談ください。

院長 奥田

どのような治療を選択するにしても、歯周病の治療には患者様ご自身の“行動”が不可欠です。ぜひ一緒に、お口の中から毎日の生活を変えていきましょう!

診療内容

当院について

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院長紹介

奥田 裕太

1982年生まれ。大阪十三で「おくだ歯科医院」を経営。大切にしているのは「患者様と一緒に悩み、一緒に成長し、笑える、二人三脚の治療」。

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